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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

県の大屋根 奈良市景観審の審議、継続に

不要論から意匠への疑問まで意見相次ぎ

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2012年1月25日
大屋根について審議した奈良市景観審議会=2012年1月25日、奈良市上三条町の市中部公民館
審議会で示された大屋根の完成予想図(駅出口からの眺め)
通りを挟んで側面から見た大屋根
大屋根の下で空を仰いだときの眺め。奥は駅ビル
上から見た大屋根(駅ビルの上階から)
 県が近鉄奈良駅前行基広場に計画している大屋根が25日、奈良市景観審議会(会長・川崎清京都大学名誉教授、15人)で審議された。不要論から、県が言う必要性の根拠への疑問、意匠への注文まで、意見が相次いだ。審議会は意見を計画の参考にしてもらうのが目的で、計画の是非を決する機関ではないが、風致デザインの専門部会に場を移し、継続して審議することになった。
 県はこれまで、おおむね県民の理解を得たとして計画を進めてきたが、審議の展開は異なるものになった。
 県の計画では、広さ約560平方メートルの行基広場のほぼ全体を、高さ11メートルの鉄骨造りのガラス屋根で覆う。柱の表面は木材で化粧を施す。事業費は1億7600万円で、来年度着工の予定。県は、雨を防ぐことで、待合い空間としての機能を高め、奈良の玄関口にふさわしい広場にすると説明している。
 しかし、広場ができた経緯などから、空を遮る屋根は不要とする反対意見も県民の間に根強い。
 審議会には県道路・交通環境課の担当者も同席した。
 出席した12人の委員のうち、屋根が不要としたのは3人。実清隆・奈良大学名誉教授(地理学)は「屋根ができると広場が通路になり、開放感がなくなるる。ハチ公の前もベルギーの小便小僧の前も西郷さんの前も屋根の発想はない」とした。
 また、北村拓哉市議(共産党)は「どれだけの人が本当に屋根を求めているのか」とし、県が必要性の根拠にしているパブリックコメントの意見の数や、アンケートの質問の仕方に疑問を呈した。樽谷佳男市議(民主党)も「広場は近鉄の土地で県から申し出があれば、市は拒否できない。計画は唐突で二重行政だ。奈良市との話し合いが必要」と述べた。
 反対とはしなかったものの、注文を付けたのは3人。エッセイストの中田紀子さんは「雨のときにあれば便利という程度で、あえてつくらなくてもとも思う」としたが、「つくる前提でいえば、屋根の形が奈良のイメージに合わない。屋根の骨組みも細かすぎて圧迫感がある」とした。
 また、室雅博・奈良まちづくりセンター理事長は「絶対反対ではないが、柱が太くて景観が遮られる。通りの反対から眺めると柱だけが目立つ」と指摘した。上原雋市議(政友会)も「駅ビルやアーケードとの隙間はなくせないのか。夏の温室効果が心配。ハトのふん害対策は大丈夫か」と不安な点などを挙げた。
 賛成意見を述べたのは3人。奥村隆司・南都経済センター顧問は「景観が損なわれても、駅ビルなどとの一体として必要。地域としての必要性もある」とした。大橋雪子市議(公明党)も賛成としたうえで、「屋根が低い。周囲のビルやアーケードとのバランスをとってほしい。雨の日の屋根の要望を障害者からも聞いている」とした。
 また、中村妙子・奈良佐保短期大学教授(色彩・デザイン)も「雨のとき、ありがたい」としたが、「観光の動線をどう考えるのか方向を決め、何がベストか議論すべき。屋根のメタリックと柱の木の化粧板がアンバランス」と注文も付けた。
 審議を継続するにあたっては、委員から、この日の意見を受けた比較案の提示を求める要望も出た。
 県道路・交通環境課の東智徳課長は審議を受けた対応について「市と相談したい。意見を尊重していきたい。良いものをつくりたい」とした。
 市景観課によると、市景観審議会の対象となるのは、景観に影響を与える大規模な建築物。大屋根はその規模に該当しないが、賛否をめぐって「大きな問題になっている」(市景観課)ことから、審議会に意見を求めた。また、本来、審議会の専門部会、風致デザイン部会が扱う案件だが、全体会議に諮った。(浅野善一) 
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