地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一
渡り経路、風力発電で変化
タカの仲間、越冬地へ ―15―
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2012年10月9日
↑羽ばたきながら飛翔するツミ(幼鳥)=2007年10月、和歌山県の日ノ御埼
↑滑翔しながら南を目指すチゴハヤブサ(幼鳥)=2009年10月、奈良県御杖村
↑近年、タカの渡りが多く観察されるようになったみつえ高原牧場=2012年10月8日、奈良県御杖村

 さわやかな秋晴れが続く10月上旬、奈良県各地の大空を北東から南西に向かってさまざまな野鳥たちが飛翔していく。「秋の渡り」だ。渡りとは、日本各地で繁殖を終えた夏鳥たちが越冬地のタイやマレーシア、シンガポールなど東南アジアの国々を目指して移動する行動だ。観察される野鳥はタカの仲間のサシバやハチクマが主流だが、ツミやチゴハヤブサなどの小型のタカも少数交じって飛んでいる。

 ツミは北海道から九州の森林で繁殖する夏鳥だが、少数が本州中部以南で越冬する。多くは平地から山地の林に生息するが市街地の公園で繁殖する例も増えている。体長は約28センチ。頭部から背面、尾にかけては濃い青灰色で、腹部は白く茶色の細かい横じまがあり、成鳥の雄は胸から脇にかけてオレンジ色が鮮やなタカである。

 一方、チゴハヤブサは体長約30センチ 。北海道から本州北部の平地で繁殖するが、巣はカラスや他のタカの仲間の古巣を利用することが多い。頭部は黒く、背面から尾にかけては濃い青灰色。腹部は白く焦げ茶色の縦じまがあり、成鳥の雄はツミ同様鮮やかなオレンジ色だ。

 秋空を飛翔する渡り鳥は、何もタカの仲間だけではない。アマツバメやイワツバメなどのツバメの仲間、ヒヨドリやセキレイの群れなども見られる。従来、渡り鳥の観察地点として、国内では長野県の白樺峠や愛知県の伊良湖岬が知られていた。また、近畿地方の中では大阪府の交野山、和歌山県の日ノ御埼、奈良県の高見山などが観察地として特に有名であった。

 しかし近年、伊良湖岬や高見山、日ノ御埼などで観察される野鳥の数が減少している。そして、今まであまり知られていなかった地域で、多くの渡り鳥の移動する姿が見られるようになってきた。例えば、大阪府高槻市にある萩谷総合公園や徳島県の鳴門公園、奈良県御杖村のみつえ高原牧場などだ。野鳥に関心を持つ人たちが増え、観察例が多くなったせいかもしれないが、明らかに移動経路が変わったものと考えられる。

 その原因は不明だが、日本各地の山々に風力発電用の風車が建設され、野鳥たちにとって渡りの障害になっていることや、地球温暖化による異常気象などが鳥たちの行動に影響を与えているのではないかと考えられている。もしも原因の一つが私たち人間にあるとすれば、その原因を突き止め、何らかの対策を取らなければ、渡りの移動経路が変わるだけでなく、野鳥の数が減少する事態に陥るかもしれない。

 万葉の昔から和歌に歌われ、俳句に詠まれ、人々を魅了してきた野鳥の渡り。いつまでも季節の風物詩として、後世の人々に伝えられる存在であってほしいものである。

 (よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新

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