地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一
ノスリ、トビ 増加に注意
環境悪化の指標 ―17―
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2012年11月12日
↑田んぼの上空を飛翔するノスリ=2009年11月、生駒市高山町
↑河川の上空を旋回するトビ=2004年12月、十津川村
↑ノスリの生息する里山=2011年9月、生駒市高山町

 稲刈りが終り、里山が紅葉で鮮やかに染まる11月中頃。越冬のため奈良県内各地の里山にはさまざまな野鳥たちが北国からやって来る。

 ツグミやアトリ、マヒワなどの群れが上空を飛び交い、ヌルデやヒサカキ、ムラサキシキブなどの木にはジョウビタキ、ルリビタキなどが現れ、木の実をついばむ姿が頻繁に見られるようになる。一方、猛禽(もうきん)では、これまで里山で見られた夏鳥のサシバやハチクマなどは姿を消し、代わってハイタカやツミ、ノスリなどが見られるようになる。

 ノスリは本州中部以北で繁殖するする留鳥だが、秋から冬にかけては低地や暖地に移動するため全国的に見られる。生息地は草地や農耕地、河原などで、地上にいるネズミやカエル、ヘビ、昆虫などさまざまなものを捕らえ、餌としている。ちなみに、県内では繁殖の確認はなく、冬季のみ観察される猛禽である。

 体長は約55センチ。翼を広げると130センチ以上もある。頭部から背面にかけて茶褐色。翼の下面や腹部は淡いクリーム色で、脇から腹の中央にかけて太い黒色の帯があり、他の猛禽との識別の目安になっている。また翼の両端に黒い部分があるのも特徴だ。ノスリは高空を旋回する姿を見かけることが多く、同じタカの仲間であるトビと間違えられるが、お互いの生息環境はいささか異なっている。

 トビは北海道から九州まで全国の山地や平地、市街地などで普通に見られるが、海岸や大きな河川の河口部では数が多い。ヘビやカエルなども捕らえるが、主に水面に浮いている魚の死肉やごみなどを食べている。体長は約65センチ。翼を広げると160センチほどになる大きな猛禽だ。全身は焦げ茶色だが、翼の両端に黒い部分と白い部分がわずかに確認される。尾羽根の縁が三味線のバチの形をしているのが特徴である。

 ノスリとは捕食する餌が違うことから、生息地には吉野川や十津川があり、ダムなどの水辺が多く点在する県南部で数多く見られる。しかし、平城宮跡などの草地がある奈良市、里山の多い生駒市や大和郡山市など、県北部でトビを見ることはまれである。

 ノスリもトビも全国的には数が多く、環境省レッドリストの貴重種には含まれていない。ノスリはネズミを主食にしているため、里山の荒廃が進めば数が増えるかもしれないし、トビも水辺の環境が悪くなれば数が多くなる可能性がある。どちらも適度な数で生息することが好ましいだろう。いずれにしても環境変化の指標になる猛禽だけに、観察される数には常に注意が必要ではないだろうか。

 (よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新

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