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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

奈良市、生活困窮者保護の徴税回避率5位

近畿15万人以上の32市の滞納処分を比較

差し押さえ実施率最大5倍の開き 関学大院研究員の鈴木氏調査

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2010年6月30日
2年前に新設された滞納整理課=奈良市二条大路南1丁目の奈良市役所
 奈良市が滞納者の生活困窮などを理由に徴収を断念した市税の額は課税額全体の0.8%に上り、近畿の15万人以上の32市中5番目の高さであることが、関西学院大学大学院研究員の鈴木潮さんの調査から分かった。この32市を比較すると、差し押さえなどによる滞納処分額が全課税額に占める割合は、最大で5倍もの開きがあることを鈴木さんは突き止めており、従来の徴収率だけでは見えてこない税務の実態に迫っている。
 自治体財政の根幹をなす地方税の徴収をめぐり、悪質な滞納者を洗い出すことが税の公平に欠かせないが、生活に困窮する納税者を保護することも自治体の重要な職務だ。しかし税の徴収率は通常、差し押さえなどが行われないまま時効を迎えてしまう不納欠損処分の影響が大きく、徴税努力が必ずしも反映されていないことに鈴木さんは着目。「徴収業務の内容こそ重要」として昨年、情報公開請求や資料提供依頼などの調査を通して、2004年度から08年度までの数値を集め、その平均値を比較して分析し、今月20日、東京都内で開かれた日本地方財政学会で研究成果を発表した。
 滞納処分と執行停止の双方が活発に行われている好ましい事例として、大阪府枚方市の実態を報告したほか、滞納処分が活発で、かつ安易に徴収を見送る執行停止を行っていない兵庫県加古川市や大阪府岸和田市の状況も浮き彫りにした。滞納処分率は、加古川市が約4%でトップだった。
 一方、生活困窮や無財産などの状況から執行停止にした額を課税額全体から見た比率は、大阪府高槻市が最も高く約1%。奈良市は約0.8%と5番目に高かった。枚方市や兵庫県尼崎市などは分納や延納を活用しており、「滞納者との接触によって財産情報が把握できる利点もある」と鈴木さん。
 だが、滞納処分と執行停止の双方が低調な自治体もかなり目立ち、これらの執行状況を課税額に対する比率で比較すると、それぞれ5倍の差が現れた。差し押さえも困窮者の保護も、ともに地道な財産調査が欠かせないが、自治体で5倍もの開きがあるという現実は、税務の姿勢や努力に大きな落差があることを物語っていると言えそうだ。
 これら自治体の滞納処分率の平均は1.48%で、国税の0.33%より高い。さらに執行停止率の平均も、地方税の0.62%に対して国税は0.20%にとどまる。これにより、滞納処分と納税者保護の施策は、自治体間の落差は大きいものの、国より自治体の税務の方が総じて活発という興味深い見方ができる。
 総務省のデータによると、地方税の滞納総額は約1兆3948億円(08年度決算)。鈴木さんは「税の適切な徴収の執行に向けて、一定の指標が欲しいが、実態研究がないため線が引けないことが現状だ。強制的な徴収、そして経済的な困窮者を保護するには、ともに高い調査能力が必要」としている。
 奈良市滞納整理課の辻井敬雄課長は「調査には情報提供などで協力した。執行停止率が高いという感覚は特に持っていなかった。これからも消滅時効による不納欠損額が少しでも低くなるよう引き続き努力していく」と話している。(浅野詠子)
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