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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

〈視点〉住民に議論重ねる場を提供

大宮通り景観づくりに見る県の試み

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2010年8月19日 浅野善一
 平城遷都1300年祭を控えた昨年度、道路交通の玄関口となる奈良市の大宮通りで、一部沿道の景観がより落ち着きのあるものへと改善された。建物の壁や屋根の塗り替え、看板の撤去や縮小が県・市の修景助成制度によって行われたのである。これには県の一つの試みがかかわっていた。沿道の住民や事業者が参加するワークショップの採用である。住民に景観づくりの議論の場を提供し、気運醸成に努めた。修景に協力した事業者にはワークショップのメンバーもいた。従来の行政の手法からの変化をうかがわせるものだ。行政が誘導する住民によるまちづくりは当の地域に根付くだろうか。
 県地域デザイン推進課は、大宮通りを景観まちづくりのモデル地区とし、2008年度から本年度までの3年間の計画で、地元自治会や沿道の事業者の参加によるワークショップを実施している。ワークショップは参加者の意見やアイデア、情報を引き出し、意見をまとめていく手法の一つで、大宮通りでは09、10年度の2年間に11回のワークショップと先進地視察、中間報告会を行い、建物の配置や色彩など沿道景観の在り方や景観づくりの方法について検討を重ねた。これらを反映して具体化したのが修景助成制度と沿道での花の植栽である。
 修景助成制度は、奈良市が定める建物の色彩基準や屋外広告物の基準に沿って、彩度や明るさを抑えた色を使った建物の塗り替えや看板の縮小・撤去を行えば、費用の半分を助成するというもので、応募のあった9件が実施された。
 沿道のテナントビル所有者の永井克育さん(55)は制度を利用して建物の色を塗り替えた。住まいは別の地域だが、ワークショップに参加して認識を深めたという一人。「地元の人たちが大宮通りに愛着を持っていることが分かった。これまで自身はそこまでの愛着はなかったが、大事にしていかなければと思った」とする。
 ほかにワークショップのメンバーで助成制度に応募した事業者としては沿道の仏具店・奈良山中大仏堂がある。店舗看板を縮小して修景に協力した。
 沿道への花の植栽は参加者を一般から募って実施した。ワークショップのメンバーで、植栽した花を中心になって世話している二条大路南5丁目自治会長の吉田武さん(69)は言う。「観光客の入り口となる大宮通りにきれいな花があれば心安らぐ。これまで看板はぐちゃぐちゃ、街路樹の剪定(せんてい)はひどい。その根元のコンクリート升は根が張り出してがたがた。古都奈良の入り口としてふさわしい状態ではなかった」。
 ワークショップの中心的メンバーである都跡地区自治連合会副会長の北中征夫さん(71)は「平城宮跡、唐招提寺、薬師寺などの世界遺産と同じように、良いまちの景観は次代に残せるもの」との思いだ。
 従来の行政の手法は、行政側が決めたことを地元に説明するという一方通行のものだった。県は大宮通りでの取り組みで、ワークショップを通じて住民が主体的にまちづくりに参加するということを目標にした。
 地域デザイン推進課の担当者は「ワークショップの目的はきっかけづくり。これまで県がここまですることはなかった。先導的に取り組んだ。まちづくりの基本は市町村単位。こうした手法は時間と人手を要するという課題もあるが、今回の取り組みが県内のまちづくりのモデルとなるよう県内市町村にPRしたい。県庁内においてもこれをモデルケースにできれば」とする。
 ただ、県が誘導するまちづくりの進め方にかかわって次のような声を聞くこともあった。地域デザイン推進課の呼びかけで、古道「下ツ道」沿道の大和郡山市、天理市、田原本町それぞれに設けられた「下ツ道沿道集落まちづくり協議会」という組織がある。同課による沿道観光地図作りなどに協力している。県が住民主体のまちづくりを支援するという目標を前提にしており、協議会の構成員は地元市町と沿道の自治会。ある地元自治体の担当者は「自治会に形だけ名前を連ねてもらった」と正直に話した。協議会の実質性が課題の一つであろう。
 そして一つ、触れないわけにはいかないことがある。担当課は異なるが、奈良市の近鉄奈良駅前行基広場に県が計画している大屋根の問題である。景観上の問題とともに県の事業の進め方に批判が出た。県民がこの計画を事前に知る機会がなかったからだ。大宮通りを道路交通の玄関口として重視するならば、鉄道交通の玄関口である近鉄奈良駅前の景観についても住民がかかわる機会を当初に設けるべきであった。そうでないと県がせっかく発想を変えて取り入れようとしている手法が結局、県の都合に過ぎないという評価になってしまう。
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