地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

〈視点〉歓迎ムード、屋根だけでない

メール
2011年8月17日 浅野善一
県の近鉄奈良駅前道路景観整備委員会の報告書(2007年度)が示した行基広場周辺の整備イメージ。若草山方面の伸びやかな風景が強調されている。大屋根はない
 荒井正吾知事は以前、庁内の会議で、近鉄奈良駅は歓迎ムードが不十分だから、行基広場に屋根を付けては、と発言している。ならば、県がこの広場に建設しようとしいている大屋根の是非は、奈良の玄関口の「歓迎」を表す象徴にふさわしいかどうかで議論すべきだ。雨よけや日よけといった、利便性や機能だけを理由にするのは適切でない。もし雨の日の駅利用者への配慮が必要というなら、それを前提に駅周辺の整備について調査、研究すべきで、その結果が大屋根になるとは限らない。
 一昨年5月の県庁内の観光戦略会議でのこと。荒井知事は「宿泊観光の増大に向けて」をテーマにした議論の中で「宿泊や滞在に向けての取り組みはよいが、歓迎ムードがない。近鉄奈良駅は多少良くなったが、(中略)歓迎場所となる駅構内以外の公共的な広場としては、行基菩薩のところまでない。そこに屋根を付け、ここで情報を取って欲しいと言いたくなる不十分な到着駅」と述べた。
 県が昨年3月に外部の研究機関に委託してまとめた近鉄奈良駅周辺整備の報告書がある。大屋根の設置について検討しているが、目的については行基広場を観光客や買い物客ら来訪者の交流広場として活用するためとあるのみで、駅周辺での雨や日差しの影響についての検討はない。
 一方、県は昨年の平城遷都1300年祭を控えた07年度、有識者でつくる近鉄奈良駅前道路景観整備委員会に諮問して、駅周辺整備の基本方針を検討している。報告書は、行基広場を含む駅前の大通りを「古都への誘(いざな)い景観ゾーン」と位置付け、市街地側から若草山への眺望確保などを求めている。行基広場での雨、日差し対策、屋根の必要性は示されていない。添付の行基広場周辺整備イメージ図は、若草山方面の伸びやかな風景が強調されている。
 反対派の間に「大屋根の設置目的が分からない」という声がある。「なぜ必要なのかよく分からない」という、駅のある奈良市の市職員の声も聞く。
 担当の県道路・交通環境課にあらためて質問した。荒井知事の、近鉄奈良駅は歓迎ムードが不十分…、という発言をよりどころにして、次のように尋ねた。
 「県は大屋根の設置目的について行基広場の待ち合い、交流空間としての機能向上を掲げているが、実際は歓迎ムードを演出するためで、屋根はその象徴という位置付けではないか。雨にぬれないという理由は後から考えたのではないか」
 同課は17日、次のように回答した。
 「近鉄奈良駅前行基広場は、奈良観光の玄関口でありながら、待ち合いや交流のための場所としては、特に降雨時には利用がしにくく、待ち合いだけでなく、駅から商店街までの移動等においても雨にぬれる状況。また、晴天時には強い日差しの影響を受けたり、団体の待ち合わせは地下になるなど、利用者環境に乏しい状況にある。このため屋根を設置することにより、悪天候時の雨露を遮り、晴天時の日差し等の影響を和らげることにより、快適な交流空間を創出し、奈良観光の玄関口にふさわしい待ち合い空間としての機能向上を図る」
 従来通りの説明のみだった。県が言う「奈良観光の玄関口にふさわしい待ち合い空間」とはどんなものか。大屋根以前の、そこから県民に問う手順を踏むべきだ。行基広場は40年前、当時の鍵田忠三郎市長が、地下駅を下りた観光客にまず青空を見てもらえる場所をと実現させたものだが、県は大屋根の計画段階でこうした経緯を把握していなかったというから、なおさらだ。
 大屋根は、雨の日の通勤客や車いすにとっても便利との賛成意見がある。しかし、大屋根の設置理由にそれらは見当たらない。屋根を支えるのに直径81センチの柱が6本必要だが、「行基広場はそれほど広くない。柱が移動の障害にならないか」と指摘する奈良市職員もいる。雨の日のさまざまな駅利用者への配慮が必要ならば、行基広場の在り方と同時に議論すべきだろう。
 大屋根の是非で考えなければならないのは、景観か雨よけかをはかりにかけることではない。
関連記事テーマ
ご寄付のお願い
 ニュース「奈良の声」は、市民の皆さんの目となり、身近な問題を掘り下げる取材に努めています。活動へのご支援をお願いいたします。
 振込先は次の二つがあります。
ニュース「奈良の声」をフォロー
  Facebook
当サイトについて
 当局からの発表に依存しなくても伝えられるニュースがあります。そうした考えのもと当サイトを開設しました。(2010年5月12日)