地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

公園の遊具の色 なぜ、青ばかり

自然や町並みとの調和は

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2011年11月14日
青一色の遊具。背後は紅葉したサクラ=奈良市六条西6丁目の1号街区公園
 奈良市の公園の遊具の色は、なぜ青ばかりなのか。同市だけでなく、県内のほかの地域でもよく見かける。理由には、子供たちの喜ぶはっきりとした色で、かつ派手すぎないといったことなどがあるようだが、一歩引いて公園の木々や周囲の町並みの中で見ると、釣り合いも気になる。遊具の色は、どのように決まっているのだろう。自然景観や都市景観に調和させたり、住民参加で色を決めたり、もっと多様にできないものか。
 奈良市六条西6丁目の1号街区公園は新興住宅地にある。遊具は定番の滑り台やブランコ、ジャングルジム、鉄棒など。色は全て青だ。植栽もあり、春はサクラ、夏は緑、秋は紅葉が美しい。こうした環境の中で、青一色の遊具は際立つ。同時に画一的な印象も与える。周囲が樹木の緑だと、寒色系ばかりということにもになる。

かつては若草色に統一 奈良市

■青以外の色を使った遊具
黄一色の遊具=奈良市五条3丁目の1号街区公園
赤や黄を組み合わせた遊具=橿原市中曽司町の磐余団地児童公園
赤色の遊具は秋の紅葉になじむ=奈良市大渕町の大渕池公園
町中の公園にあるカラフルな遊具=大和高田市本郷町の馬冷池公園
古墳をイメージして茶色にした大型遊具=広陵町大野の馬見丘陵公園
 県内最大の都市である奈良市が管理する都市公園は524カ所。市公園緑地課によると、ほぼ全てに遊具がある。色は決めていないが、青色が主流。はっきりとした色で、遊具が目立った方が公園らしさを出せるためという。かつて、鍵田忠三郎市長(1967~80年)の時代に、現在も公用車などに使われている若草色に統一したが、公園の草木の緑に埋もれて目立たないという理由でやめた。
 青のほか、やはり原色の黄や赤も使っているが、赤はワンポイント程度にとどめている。赤一色にした公園の周辺住民から苦情が出たことがあるためだ。
 県内のほかの地域はどうか。県北中部の市部の担当課に聞いた。奈良市と同様、色を決めているところはなかった。業者が設置した当初の色を維持しているところがほとんどだった。
 大和郡山市も青は多いとした。市都市計画課によると、公園には植栽があるので、そうした類いの色を選び、奇抜な色は避けている。黄や赤は少ないという。
 生駒市は「赤、青、黄、緑が多い」(市公園管理課)とした。
 天理市は赤、黄、青などの色を組み合わせているという。市まちづくり事業課は「町中では景観はあまり関係ない。山手であれば、櫟本高塚公園のように木製のものや茶色のものなど、自然色の遊具を設置している」とした。
 大和高田市は、一つの公園の遊具が全て同じ色ということはないとした。市都市計画課によると、明度を抑えた上で、楽しいイメージがわく色として、ライトブルーやピンク、赤、ライトグリーンなどを使っているという。
 橿原市は「赤、黄、青の子供が喜ぶ原色を使っている」(市まちづくり推進課)という。一方で、都市計画法の風致地区にある香久山公園の遊具は濃い茶色とした。
 桜井市は「赤、青、白がよく使われている」(市都市計画課)とした。
 香芝市は青、緑が多いとした。市公園道路維持課によると、芝生の上は緑、土の上は青という例が多いという。
 県が設置している公園もある。県公園緑地課によると、遊具の色は「各公園のコンセプト」に合わせているという。近隣住民を対象とした斑鳩町の竜田公園の滑り台は青。河合・広陵の両町にまたがる馬見丘陵公園には、滑り台を中心にした大型複合遊具があるが、色は園内にある古墳のイメージに合わせて茶。奈良市の大渕池公園は子供がテーマといい、タコをかたどった大型遊具はピンクだ。
 取材した各市によると、地域住民から遊具の色に対する要望はほとんどないという。あれば応じるとした市もあったが―。

自然が持つ色を借りる 東京都八王子市の試み

自然が持つ色を借りてデザインした東平岡公園の遊具(東京都八王子市のホームページから)
 全国では、東京都八王子市の試みが興味深い。都市景観の視点で、住民が公園の遊具の色を考える機会を、市がつくった。同市はことし4月、景観行政団体となり、10月、市景観計画の運用を始めた。これに先立ち、市民を対象に都市景観セミナーが開かれたが、その一環として2009年に行われたものだ。
 対象は、市役所近くの東平岡公園にある「ウオール」と呼ばれる壁状の遊具。地元住民に実際に色を塗り替えてもらい、景観の変化を実感してもらう狙いだった。
 色の選択は、専門家の指導で、公園にある自然が持つ色を借りるという方法で行った。木々の葉や土、石などの色を色見本帳を使って測った。季節が秋だったため、紅葉の赤や黄などを組み合わせたデザインとなった。遊具はそれまで白と水色の組み合わせだったが、塗り替えで、公園の自然風景に溶け込む感じになった。
 市市街地整備課の草間亜樹主査によると、同公園の指定管理者が取り組みに共感して、残った塗料で他の遊具や柵も塗り替えたという。同主査は取材に対し、「奈良や京都と違って、八王子は歴史が浅く、景観をイメージしにくい。ごく身近な所をどう工夫するかにかかっている」と話した。
 奈良市は八王子市より早く景観行政団体となり、2010年4月に市景観計画の運用を始めている。
 遊具の業者にも色について聞いた。
 東京都渋谷区の遊具製作販売会社「アネビー」は、ヨーロッパの遊具の輸入販売も手がける。熊尾重治社長によると、遊具の色は国によって違い、ヨーロッパではそれぞれに何となく国の色があって、遊具の色もそうした統一感を反映しているという。一方、日本の遊具の色には、そうした統一感はみられないという。
 その上で、「遊具の色はそれを置く環境によって変わるもの。周囲がカラフルであれば、遊具もカラフルに。周囲が落ち着いた色であれば、遊具も落ち着いた色に。ただ、行政は安全で長持ちすればいいという考え方で、色にはあまり関心がないようだ」とした。(浅野善一、末尾の遊具業者の話は11月15日に追加)
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