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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

手作り 自分新聞、静かな人気

伝わる手の動き ネットにない味わい 個人の興味に関心

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2012年2月8日
↑「南果」の自分新聞展で展示された新聞の数々=奈良市高畑町の同店
↑自分新聞展を開いた長晶子さん
↑いっぷく通信の尾黒弘美さん 
↑西尾勝彦さんの粥彦
↑TUBUTANEの大八木恵子さん
 創作に関わっている人などが、自分の近況や関心事をつづった、手作りの個人新聞が静かな人気だ。部数も配布の範囲も限られるが、作者の手の動きが伝わる手書きの文字など、インターネットにはない手作りの味わいが、作者にも読者にも支持されているよう。

展示会を企画 ―― 南果

 奈良市高畑町で雑貨販売と喫茶の「南果(なんか)」を営む長晶子さん(40)は昨年夏、店2階のイベントスペースで「自分新聞展」を開いた。「いろんな作家や店をしている人、仕事をしている人が趣味とか、気になったこと、散歩で出合ったことなど、個人的な興味を発表する場があったら面白い」と考えた。公的な意味合いのある「新聞」に「自分」という言葉を組み合わせたのも、長さんだ。
 展示した新聞は約20点。長さんが、交流のある詩人や雑貨の作家、パン店の店主らに出品を呼び掛けた。大半の人は、この企画のために新聞を作った。ほとんどがパソコンなどの印字ではなく、手書きだった。
 大きさや紙面の体裁などは自由で、それぞれに個性のある新聞が並んだ。内容は「日常のこと、架空の話、妄想、日記、好きな物」(長さん)など私的な話題が中心だったが、新聞の作者本人を知る人などは「その人の知らなかった側面や興味のあることなど、違う面が見られた」と関心を示したという。
 長さんは手書きの新聞の魅力について、「紙で作られた新聞を持ち帰り、持ち帰った物をふとまた見てみたりする。手書きの文字には人となりが出て、味わいがある」と話す。
 新聞を発行している奈良市内の人たちを取材した。

一家の日々の暮らし、記事の軸 ―― 尾黒さんの「いっぷく通信」

 同市奈良阪町の尾黒弘美さん(48)の「いっぷく通信」(関連のブログへ)は、尾黒さん一家の日々の暮らしが記事の軸になっている。読者には「心が和む」と評判という。
 尾黒さんは、夫と子供2人の4人家族。木版画やはんこの制作もしている。
 「いっぷく通信」の創刊は1998年。2人目の子供が生まれたときで、子育て日記を中心に他の日常の話題も加えて作った。知人に送ったり、取材したパン店に置いてもらうなどして、読者を増やしていった。
 体裁はA3判1枚で1部300円。年にだいたい4回発行している。親しみやすいイラストをちりばめ、「手の動きが残るところがいい」と好きな手書きの文字も生かす。小さなカレンダーや豆絵本、歳時記など、手作りの付録もいろいろ付ける。家族が読んだ本の紹介などを別冊で付けたこともある。1回当たり100部を作り、50人近くいる継続的な購読者に送るほか、ギャラリーや手作り雑貨店に置いてもらっている。
 自宅は市郊外の古民家。買ってから住めるようになるまで6年かかった。全て自分たちで修理した。その様子を順次、イラストで紹介した。田舎暮らしがしたいという人などから反響があった。「自給自足の生活がしたかった」という尾黒さんは、畑で野菜を育てていること、雨水をため水やりに使っていること、生ごみを堆肥化していることなどを紙面で紹介する。「こんな暮らしをしたい、それを書いている」という。
 2011年末に36号を出した。尾黒さんは「趣味ならここまで続かなかった。待ってくれている購読者がいるから続けれられた」と振り返る。

訂正の跡、そのままに ―― 西尾さんの「粥彦」

 同市高畑町の詩人西尾勝彦さん(39)の「粥彦(かゆひこ)」は、西尾さんが詩や本、奈良について思いつくままにつづった、A4判1枚のフリーペーパー。飾り気のなさが一つの体裁になっていて、紙はわら半紙、文字は手書きで訂正や挿入の跡がそのまま残っていたりする。ワープロなどがなかった時代の学級通信を思い起こさせる。
 高校の国語教師でもある西尾さんが詩を書き始めたのは2007年。奈良市で暮らすようになってからのことだ。西尾さんは京都市出身だが、01年、それまで住んでいた大阪府東大阪市から移ってきた。家族で遊びに訪れた奈良公園の雰囲気が気に入ったからという。
 「粥彦」の創刊は11年1月。出版した詩集を置いてもらっている喫茶店や雑貨店、ブックカフェ、ギャラリーに顔を出すときの手土産にしようと作った。2、3カ月おきに作り、500〜600部を印刷している。12年2月には6号を出した。
 原稿は、文字が柔らかい感じになるからと、万年筆を使う。訂正の跡が残っているのが面白いと感想をくれる人がいて、最近、作るのに慣れて訂正が減ってきたら、もっと訂正しろと注文が来たりするという。
 奈良、京都、大阪の店には、郵送でなく足を運んで届ける。店の人と話すのが面白く、店の人も喜ぶ。こうした手渡しにしても、手書きにしても、西尾さんには思いがある。「21世紀はデジタルな時代だが、疑問がある。効率化が進んでいる現代に、時間のかかる作業をしたい」。
 尾黒さんと西尾さんは「南果」の自分新聞展にも出品した。

空想的で愉快なイラスト ―― 大八木さんの「TUBUTANE」

 奈良市南城戸町のパステル画家5*SEASON(ファイブ・シーズン)こと大八木恵子さん(49)の「TUBUTANE(つぶたね)」は、空想的で愉快なイラストが印象的。A3判の紙の両面に手書きの文字がびっしりと並ぶ。大八木さんの活動や近況が分かる。
 創刊は、出身地の京都市から東京に引っ越した1995年。京都の知人らにあて、手紙代わりに作って送った新聞が第1号になった。「続けて読みたい。東京での暮らし、東京のまちやアートシーンを知りたい」と反響があり、以来、年に数号ずつ発行してきた。間もなく80号を迎える。
 奈良市に移り住んだのは2009年12月。現在、郵送やコピーなどの実費を負担してもらっている固定の購読者は40人いる。このほか無料のサンプル版を500部作り、奈良、京都、大阪、東京のギャラリーや小さな書店に置いてもらっている。
 続けるのが大変で、やめようと思ったこともある。そのときは、印刷と発送を引き受けてくれるボランティアが現れて、支えてくれた。インターネットでの発信に変えようと考えたこともあるが、すでに購読料を払ってくれている人に申し訳ないと、思い直した。
 親しくしている編集者などから、「自分の視点で書いた新聞は、本人を知っている人には面白いけど、本人を全く知らない人には面白くないのでは」と感想を聞いたことがある。大八木さんはこう考えるようにしている。「個人的なブログ、ツイッター、フェイスブックが人気だったりする。すごく私的な新聞だから逆に面白い」。

「 情報の濃さ、ネットと違う」 オンリーフリーペーパーの松江代表

 インターネット全盛の時代に、規模の小さな紙の個人的な新聞が支持される理由を、東京都渋谷区のフリーペーパー専門店「オンリーフリーペーパー」の代表松江健介さん(30)に聞いた。松江さんは、紙とインターネットを比較して「情報の濃さや自分の中の残り方が全然違う。紙の情報は3次元でリアル、温かみがあり、保存もできる。ネットは情報を拾いやすいが、忘れやすい」という。また、背景について「ツイッターなどのソーシャルメディアの広がりで、個人がメディアになれる時代になった。店では、主婦が夫の癖を書いたものが持ち帰られたりする。もともと他人に対する興味はあった。今まで発信されていなかっただけ」と説明する。(浅野善一) 
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