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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

〈視点〉中学に爆破予告、「訓練」と避難指示 生徒の知る権利は

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2012年11月16日 浅野善一
奈良市教育委員会が事件・事故発生時の対処要領などをまとめた学校園安全管理マニュアル

 奈良市立三笠中学校にことし2月、学校の爆破を予告する電話があった事件で、学校は生徒に避難を指示する際、「避難訓練」と説明し、爆破予告を伏せた。混乱を避けるためだったとする。事実が伝えられたのは避難解除後だった。生徒には、自身の安全に関わる情報について知る権利はないのだろうか。全国の同種の事件について調べてみると、三笠中学校のような対応が特異でないことも分かった。

 同校での事件は次のようなものだった。開示請求で得た市教育委員会や学校の記録文書、奈良署の広報文などによると、2月3日午前7時51分ごろ、同校に「100万円を用意しなければ学校を爆破する」と電話があった。学校は奈良署に通報するとともに、1時間目の授業を中止し、生徒約900人を運動場に避難させた。この間、同署員らが校内で不審物の捜索を行った。

 不審物は見つからなかったが、運動場での待機は1時間にわたり、捜索に当たる警察官や警察の発表を受けてやって来た報道関係者の姿が生徒の目にも留まった。生徒は避難訓練との説明を疑った。当時2年生だった女子生徒(15)は「爆破予告があったことを知ったのは、避難解除後、教室で保護者向けのプリントを配布されたとき」という。事件の経緯が書いてあった。

 電話はいたずらだった。3カ月後の4月25日、同署は少年2人を威力業務妨害の疑いで奈良地検に書類送検した。

 校長は爆破予告を生徒に伏せたことについて、「パニックを避けるためだった。警察からすぐに生徒を避難させるよう指示があった。学校の安全管理マニュアルに爆破予告の想定はなく、年2回行っている火災、地震を想定した避難訓練として実施すれば、スムーズに動けるだろうと考えた。警察は捜索に30分、時間をくれと言ったので、30分後には生徒に説明できると考えた。どの時点で何をどんなふうに伝えるか、考えながら対応していた。動揺もあった。そんな中での判断だった」とする。

 同校は、学校保健安全法に基づいて学校安全計画や危険等発生時対処要領を作成している。市教委が作成の参考として学校などに提供している市学校園安全管理マニュアルの想定に、不審者の侵入はあるが、爆破予告はない。一方、全国では、三重県教委など複数の自治体の教育委員会が爆破予告を想定事例の一つにしている。

全国の同種事件での学校などの対応

◆広島市の市立中学校では5月11日午後、「爆破するぞ」との電話があり、生徒約670人を校庭に避難させた。市教委によると、生徒には「運動場に出て、避難訓練のように集合しなさい」と動きのみを指示した。運動場に集合完了後、校長から爆破予告の電話があったこと、これから警察による捜査が行われることなどを説明したという。

◆神奈川県平塚市の市立中学校では5月16日朝、「爆弾を仕掛けた」との電話があり、生徒約620人が校庭に避難した。市教委によると、生徒には校内放送で緊急避難訓練と説明した。校長の判断によるもので、生徒が動揺しないよう配慮したという。その日のうちに生徒に事実を伝えたが、生徒に配布した保護者あての文書でも「生徒に危害を及ぼす恐れのある不審電話」として、爆破予告は伏せた。

◆神戸市の市立中学校では7月17日朝、郵便受けに「爆破する」と書かれたメモが入っているのを教諭が見つけ、生徒約320人が校庭に避難した。市教委によると、生徒が登校しているところへ、警察官が何十人と捜索に来たことから、危険物があるかもしれないので運動場に避難するようにとの説明になったという。

◆千葉市の市立中学校では9月3日朝、校舎玄関に「学校を爆破する」とのメモがあるのを生徒が見つけた。市教委によると、当日、避難訓練が予定されていたことから、避難訓練として避難を指示、管理職が避難場所で事実を伝えた。

 比較のため中学校以外の場合はどうかも調べた。

◆滋賀県立長浜高校では5月14日朝、「今日中に学校を爆破する」との電話があり、生徒らが校外に避難した。教頭によると、担任が生徒に事実を簡潔に伝えたが、動揺や混乱はなかったという。同県教委は事件を受けて、同種事件発生時の対処要領をまとめ、県立学校と市町村教委に通知した。

◆札幌市のショッピングセンターでは5月12日夕、男が店員に「爆弾を仕掛けた」と言い残して立ち去り、客ら約3100人が避難した。店によると、客を避難誘導する際、「爆弾」は伏せ、「緊急に避難が必要になった」と説明した。「どうして」と尋ねる客もあったが、混乱が想定されたので、スムーズに避難するための判断だったという。

 全国でことし5月から9月にかけてニュースになった、中学校での同種の事件4つについて、当該の教育委員会に電話取材した。避難に当たって事実を即座に伝えた学校はほとんどなかった。

 三笠中学校に最も似ていたのは、5月に事件があった神奈川県平塚市の市立中学校の場合。市教委によると、生徒には校内放送で緊急避難訓練と説明した。校長の判断によるもので、生徒が動揺しないよう配慮したという。

 このほか、広島市と千葉市のいずれの市立中学校であった事件でも、避難訓練が名目だった。神戸市の市立中学校の場合は、生徒の登校しているところへ警察が来たため、避難の理由は危険物があるかもしれないとの説明になった。

 奈良市教委に、爆破予告を伏せたことについての見解や事件後の対応を聞いた。

 学校教育課生徒指導係は「子どもの発達段階に応じた情報の開示の仕方がある。現場を知っている学校が判断したこと。理解してほしい」とする。

 学校の安全管理を所管する保健給食課は事件後、検証や爆破予告を想定した対処要領の追加の検討は行っていないとした。「今回はいたずら的な要素の多い事件であったこともあり」との理由だが、今後は「他都市の事例などを参考にしながら、必要に応じて、三笠中に限らず、全市的にマニュアルの点検を進めていきたい」とした。

 奈良市学校園安全管理マニュアルは、学校での「安全教育の進め方」の中の「学級活動における安全指導」で、次のように書いている。「児童生徒等の心身の発達段階や安全に対する意識や行動の実態に即して」との前置きはあるが、「児童生徒等が自ら意志決定や行動選択できる能力を育てるよう指導する」とある。

 「意志決定や行動選択」には判断の材料が必要で、情報の開示が前提となる。さらに、こうした自主性を育てるには、生徒を指導の対象としてみるだけでは不十分ではないか。また、三笠中学校の先の女子生徒は、学校が爆破予告を当初、伏せたことについて「うそをつかれた」と受け止めている。普段からの生徒と学校の関係や事件後の生徒への対応も、学校の安全管理につながる要素といえる。

 この種の事件は全国で後を絶たない。避難の際、生徒にどう伝えるか難しい点があることは理解できる。事後には事実も伝えているという。しかし、それは学校側の理屈で、そこにもう一方の当事者である生徒の声はない。生徒の知る権利を提起したい。

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