奈良県、奈良公園の使用許可で内部基準 愛好者のコンサートや市民作品展、認められにくく
奈良市の奈良公園での催しについて、奈良県が昨年5月、観光客誘致につながるものなどに限定するとの内部基準を設けたのを機に、従来は認められていた一部の催しが認められにくくなっていることが分かった。基準施行前の1年と施行後の1年について、県が許可した催しを調べたところ、フォークソング愛好者のコンサートや大学生の軽音楽コンサート、市民美術団体の作品展が事例としてあった。県は内部基準による判断を裁量の範囲としているが、奈良公園は市民、県民の公園である。使用についてどうあるのが良いか、条例改正を提起するなど開かれた議論の機会をつくるべきだ。
奈良公園は広さ約660ヘクタールの県立都市公園で名勝に指定されている。奈良市を代表する観光地であり、県によると年間約1300万人が訪れる。
県の「奈良公園を使用・占用する場合における許可基準」は2012年5月22日に施行された。公園の使用を許可する催しについて、政治・宗教活動ではないことなど、基本基準の7点を全て満たし、かつ、オフシーズン時の観光客の誘致、宿泊の促進につながるもの▽観光客へのもてなしの向上、リピーター確保につながるもの▽県の施策に合致し、県が実施あるいは積極的に支援しているもの▽知事が特に認める場合など、特別基準の7点のいずれかを満たさなければならないとしている。
記者は県に対し、施行前後となる11、12、13年度の奈良公園使用の許可文書を開示請求した。施行前の許可文書はあるが、施行後はない催しについて、使用を認めなかった事例があるか県奈良公園室に確認した。催しは年間30~40件あった。
県内のフォークソング愛好者団体によるコンサートの場合。11年10月16日に奈良公園の春日野園地でコンサートを開いたが、基準施行後の12年はなかった。同室は「10月に気持ちの良い場所でということだろうが、まずは観光客誘致につながることを考えてもらいたい」とする。愛好者団体は取材に対し、「特にお話しすることはない」とした。
県内大学学生の合同軽音楽コンサートの場合。11年10月1、2日と12年9月8、9日にいずれも春日野園地でコンサートを開いた。基準施行後の12年も開いたが、「基準には該当しないが今回に限り特別に許可する」というものだった。基準施行前から事前協議が進み、すでに開催が周知されていたことを考慮したという。同室は「春日野園地は社寺の参道に近く、9月は修学旅行のピークであり、好ましくない。見たくない、聞きたくないという人もいる」とする。コンサートの実行委員会によると、13年も11月の開催を目指して、あらためて県との事前協議に臨んでいるという。
県内の市民美術団体による現代美術の作品展も同様の理由で、「基準には該当しないが今回に限り特別に許可する」とされた事例。作品展は基準施行後の12年8月24~26日に奈良公園の登大路園地で開かれた。出品者は作家や一般の人。同室は「成果を発表するのが目的という、貸し公園的発想だった」とする。同団体は取材に対し、コメントしないとした。
脱原発を会場正面に掲げないよう求められた催しもある。基準施行直後の12年6月10日に登大路園地で開かれた「月桃の花」歌舞団まつり。市民らが沖縄の踊りを上演する催しだが、脱原発をテーマにしていた。奈良「月桃の花」歌舞団の辻本誠代表は「基準は承伏できない。政治的活動は駄目と言われたが、(同じ登大路園地を会場として許可された)メーデーこそ政治的課題を掲げており、理由にならない。メーデーは全国的な行事だからとの説明だったが、市民のささやかな行事には駄目と言うのか。憲法で保障された表現の自由を認めるべき」と反発する。
同室は「東京から修学旅行で来た中学校から、奈良公園に来て、なぜ奈良の伝統文化と関係のない催しを見せられなければならないのか、という苦情があった」とする。催しに対する観光客からの苦情が増えていると強調する。
一方、基準に該当するとされた催しには、「まほろばざーるin奈良公園」(2012年6月、県内ご当地メニューなどの紹介)や「第14回なら燈花会」(同年8月)、「若草山ミュージック・フェスティバル2012」(同年9月、人気ポップス歌手のコンサート)、「アースデイ2013」(2013年4月)、「第84回メーデー奈良地方大会」(同月)、「鹿せんべいとばし大会ゴールデンウイーク大会」(同年4、5月)、「奈良フードフェスティバル2013」(同年6月、奈良のシェフが奈良の食材を使ったメニューを提供)などがあった。
都市公園は都市公園法で規定されているが、奈良公園の使用許可は県の県立都市公園条例に基づき行われる。ただ、同条例3条は「公園において、競技会、集会、展示会、博覧会、興行その他これらに類する催しを行おうとする者は、知事の許可を受けなければならない」としているのみ。催しを観光客誘致につながるものなどに限定する規定はない。
基準は条例を上回る使用制限になる。しかし、同室は「県の裁量の範囲」として、県議会の議決が必要な条例改正の提起はせず、内部基準にとどめた。このため、基準の是非が公開の場で論議される機会はなかった。全国的には、熊本県合志市の市都市公園条例のように政治的・宗教的活動は許可しないと明記している事例もある。
また、基準は公表されていなかったため、ことし4月21日に奈良公園で開かれた「アースデイ奈良2013」の脱原発の扱いをめぐる実行委と県の摩擦が4月20日に新聞報道されるまで、一般には知られていなかった。
奈良公園室の中西康博室長は基準の狙いについて、次のように説明する。
「都市公園だから原則的には使用を認めなければならない。基準があれば使用を認めるかどうかで説明がぶれない。最低限の基準を作った。強制とみられるが、お願いである。奈良公園を観光産業の核として基盤整備している。何でも使用を認めれば、ありきたりの公園になってしまう。よその人には何のメリットもなくなってしまう。奈良は観光産業で成り立っている。奈良公園の100年先のことを考え、理解を願いたい」
奈良市内の男性は県が奈良公園でのメーデー開催を許可したことに対し、「政治活動を不許可とした基本基準を満たしていない。特別基準の『知事が特に認める場合』に該当するとしているが、知事は認めた理由を公開する義務がある。基準は誰が判断しても同じ判断ができるために作るもの。個人の判断に委ねるのは基準の要件を満たさない」と指摘する。このほか、「奈良に来た人の基準で考えている。自分たちのコンセプトがない。上からの目線だ」とる憤る声もあった。
何が政治活動に当たるのかということだけでなく、政治・宗教活動を許可しないとしている点も議論のあるところではないか。県は「住民主体のまちづくり」と銘打って、いくつもの事業を実施している。奈良公園の使用の在り方についても、この考え方を実践してほしい。開かれた議論は住民参加の一歩だ。