2013年11月29日 浅野善一

奈良県:奈良の墓園問題 開業時、土地に根抵当権 墓地購入希望者に知らせる仕組みなし

土地が墓地経営の許可を得た寺の自己所有ではなくなっている奈良中央墓園=2013年11月28日、奈良市白毫寺町

 奈良市白毫寺町の奈良中央墓園の土地が、市の墓地経営の許可を得た寺の自己所有ではなくなっている問題。発端は、開業前から土地に設定されていた根抵当権だった。すでに多くの墓地が販売されたが、購入希望者に根抵当権の存在を知らせる制度上の仕組みはなかった。消費者保護の点で許可制度に不備はないか。

 市生活衛生課によると、同墓園に関する問い合わせは少ないもののあるという。墓地の購入を考えているが、墓園が将来的に存続していけるのかというもので、同課はこれまでの経緯を説明し、「行政としては急になくなるようなことがないよう考えている。後は購入者の判断」と答えているという。

 墓地の開発、経営の許可は墓地埋葬法に規定があり、許可は原則として都道府県知事が行うが、市や特別区は市長や区長が行う。奈良市は、市墓地経営許可条例で許可基準などを定めている。同問題をめぐる経緯は次のようなものだ。

 同墓園は、同市紀寺町の宝珠寺が許可申請した。土地は、土地の取得費や造成費など墓地の開発費用を負担した畿央設計(大阪府東大阪市)が07年7月に取得。08年6月、同寺に所有権が移った。

 土地に、同社を債務者とする極度額1億2000万円の根抵当権が設定されたのは、市との事前協議が開始された08年7月。これを知った市は10月、寺に対し、造成工事の完了検査までに根抵当権を解除するよう指導し、念書を提出させた。12月、墓地経営が許可され、09年9月、工事は完了したが約束は果たされなかった。同月、墓園は開業、墓地の販売を始めた。

 市はあらためて、寺に対し、このときから3カ月以内に根抵当権を解除するよう指導し、確約書を提出させたが、これも約束が果たされないまま、畿央設計を債務者とする別の根抵当権も設定された。同社は10年5月ごろ、銀行取引停止処分を受け、事実上倒産。根抵当権の債権者である金融機関は10年6月、奈良地裁に土地の競売を申し立てた。土地が差し押さえられる事態に至った。

 墓地の永代使用権を販売する権利を畿央設計から買った石材販売業者の一部は墓園を維持するため、宝珠寺から土地を買い取った。寺は代金を債務の弁済に充て、競売申し立ては取り下げられたが、土地の所有権は石材販売業者を経て11年8月、大阪市の聖珖寺に移った。宝珠寺に同墓園の経営主体としての実態はなくなった。

 市は宝珠寺に対し、土地の所有権を回復するよう指導した。寺は石材販売業者や聖珖寺を相手取り、土地の売買契約は無効として登記の抹消を求める訴えを起こしたが、奈良地裁、大阪高裁と敗訴し、判決は確定した。市は現在、宝珠寺に対し、墓地経営を継続できるかどうか、文書で回答するよう求めている。

 墓地には永続性や非営利性が求められることから、市墓地経営許可条例は墓地経営の許可対象を地方公共団体や市内の宗教法人に限っている。厚生労働省の「墓地経営・管理の指針」は、土地について墓地経営者の自己所有が原則であり、抵当権などが設定されていないことが必要としている。

 同墓園の墓地の永代使用権と墓石を合わせた価格は平均的なもので100万円前後。高い買い物になる。土地に抵当権などが設定されているかどうかは墓地の永続性に関わり、購入希望者にとっては重要な情報だ。

 しかし、墓地経営者が購入希望者にそうした情報を開示するよう義務付けたような制度は、市墓地経営許可条例にない。抵当権などの存在は奈良地方法務局で土地の登記簿を調べないと分からない。

 また、市が墓地経営者に対し、条例などに抵触するような問題について指導を行った場合、同時に公表するような制度もない。

 市生活衛生課は「検討しなければいけない課題というふうには認識している。同じような問題が起きないよう何らかの対策をとっていきたい」とする。

 同墓園は、土地に根抵当権がされていたことや、土地が墓地経営の許可を得た宝珠寺の所有ではなくなっていることを、墓地の購入希望者に伝えてきたのか。墓地を実質的に販売している同墓園石材協力会に問い合わせた。取材は窓口の弁護士にするよう案内され、それに従ったが回答は得られなかった。

 ただ、協力会のうちの1社は「ことし2月、墓園の管理棟内に説明を掲示した」とした。何を説明したものかは明らかにしなかったが、直前の1月16日には宝珠寺が土地の所有権をめぐる裁判で敗訴、2月1日に大阪高裁に控訴している。

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