奈良県:中西進氏、平城宮跡の復元に懐疑的な考え 2001年著書で「心の保存を大切に」
万葉集研究の第一人者で、文化勲章を受章した国文学者、中西進氏(県立万葉文化館名誉館長)が2001年の著書で、平城宮跡の建物復元に懐疑的な考え方を述べていたことが分かった。「復元には限度があるから、すべてイミテーションにならざるを得ない」というくだりがあり、「現代人は、とかく、心のほうを忘れがちである」などの批判精神ものぞかせている。
県は現在、国土交通省が進める平城宮跡の建物などの復元を積極的に推進し、奈良市民らの間で反対運動が起きている。さらに荒井正吾知事は若草山のモノレール建設構想にも意欲を示す。上代文学の第一級の学者による直言は、あらためて関心を集めそうだ。
著書は「中西進と歩く万葉の大和路」(ウェッジ)で、日本人の心のふるさと、奈良の魅力を深い洞察でつづった随筆集。この中に「心の保存を大切にしたい」との小見出しの短文で、当時、計画されていた第一次大極殿の復元(2010年完成)に触れている。「これまでに大極殿跡を訪れ、いろいろな思い出をもっている人も多くいる。その人たちには、まったく違った宮跡が出現することになる」と言及した。
復元よりも大切なのは、いにしえの情景を人それぞれにイメージできる情報をいかに伝達するかということではないか。そんな国文学者らしいメッセージが同書から読み取れる。ハードばかりが先行し、ソフトの方が欠落してしまうと、どうなるか。中西氏は「目に見える何かがないと、何も想像できないということになってしまう。わたしは、形の保存と心の保存は、別だと思う」と書いている。
中西氏は本年、文化勲章を受章。平城宮跡の第一次大極殿院の築地回廊復元計画などについては、表立った意見を述べていないとみられる。 万葉ゆかりの地の開発をめぐっては、万葉歌の独特な朗唱で万葉集ファンを増やした国文学者の故、犬養孝氏が、奈良市菩提山町に県が計画した公共用ヘリポート建設(1998年開港)に反対意見を表明したことがある。