奈良県:野迫川村が前村長の官製談合関与を指摘 告訴も視野
野迫川村で、前村長(86)=在職1970~2010年=が談合に関わっていたと、村が指摘する事態が生じている。指摘は、村工事の入札業者指名をめぐり、村内の建設業者が村を相手取り起こした訴訟に対する、反論の中で行われた。前村長は、入札前に落札予定金額を示したメモを業者側に渡していたという。裁判所は同訴訟の判決で、前村長が関与した官製談合が常態化していたとの判断を示した。
入札適正化法は、公共工事の入札で独占禁止法違反が疑われる行為があるときは、発注した地方公共団体は公正取引委員会に通知しなければならないとしている。また、村には住民への説明責任もある。村の対応が注目される。
村を訴えたのは、2010年5月の村長選で現在の角谷喜一郎村長の対立候補だった人物が代表取締役(立候補時は取締役などではなかった)を務める建設会社など2社。角谷村長当選後の道路工事の指名競争入札で指名を受けられなかったことに対し、指名回避は裁量権の乱用だとして、同年9月、それぞれが村を相手取り、損害賠償を求める訴えを奈良地裁に起こした。対立候補だった人物は前村長の息子だった。
これに対し村は、村内の建設業者は前村長の指示で長期間にわたり談合を行い、2社はその主導的立場にあったとして、指名回避は入札の公正さの確保のためだったと主張した。
奈良地裁は13年4月、判決で2社の訴えをいずれも認め、村に損害賠償を命じたが、控訴審の大阪高裁では1社が同年12月の判決で敗訴、もう1社が14年1月の判決で勝訴と判断が分かれた。現在、訴訟の場は最高裁に移っている。
各判決は、どちらが勝訴したかに関係なく、前村長時代に官製談合が常態化していたとの判断を示した。
奈良地裁の判決によると、落札予定金額は秘書室長が計算し、設計金額、入札書比較価額とともにメモに記載し、前村長に渡していた。メモは入札当日、前村長から職員を通じて村建設業組合の組合員業者の従業員に渡された。業者側はあらかじめ決めておいた落札業者がメモ記載の落札予定金額で入札。この他の業者は、落札業者が落札できるよう配慮した金額で入札していた。
同判決は、業者による談合は遅くとも02年ごろには行われていて、メモが作成されるようになって以降は、前村長、職員も関与した官製談合が常態化していたとした。
また、控訴審の大阪高裁の2社に対する判決のうちの一つは、落札額は上限の予定価格の94%に達していたとした。業者は競争なしで高い落札額の恩恵にあずかっていたことになる。
村によると、村内の建設業者は9社あり、村発注の工事高は年間4億円。前村長時代、入札で事前に公表されていたのは設計金額のみだった。設計金額は村が積算した工事費で、入札書比較価額は、落札額の上限となる予定価格から消費税を引いたもの。公共工事入札では、予定価格は設計金額よりやや低めに設定されることもあるが、同村ではほぼ同額という。
村によると、一審の奈良地裁では、口頭弁論の折に裁判官が村側に対し「告訴はしないのか」と尋ね、代理人の弁護士が「それも視野に入れて考えている」と答えている。談合を罰する法律は刑法の競売妨害罪や官製談合防止法がある。
官製談合防止法は、地方公共団体の職員が業者に談合を行わせたり、談合を容易にする入札情報を業者に教示したりする行為があったと、公正取引委員会が認めたときは、地方公共団体に改善措置を求めることができるとしている。地方公共団体は、改善措置の内容の公表や当該職員への損害賠償請求、懲戒処分をできるか否かの調査を行わなければならない。談合行為を行った職員に対しては罰則もある。
前村長「具合の悪いこと人介して言う人間いない」
前村長は取材に対し、「何をもって官製談合というのか知らないが、私は業者に落札予定額を一切言っていない。職員を業者に回したりしていない。業者に言ってやれと私から言われたことがあるかどうか、当時の職員に聞いてもらったら分かる。常識的に考えて、具合の悪いことを人を介して言うような人間はいない」と談合への関与を否定。官製談合が常態化していたとした判決について「裁判所は、私が証人として行かないといっているなら別だが、本人から何も聞かないで言うのはおかしい」と批判した。
また、告訴される可能性がある点については「するならしてくれて結構。するのが当然。しもしないで、あいつは悪いやつだと裁判で言うだけ。そんなばかな話しはない。知っていることは話す」と述べた。
前村長は村職員、村会議員を経て、村長に当選、在職期間は10期40年にわたった。
一方、中本浩三副村長は「現在、裁判が進行中のため、取材への回答は控えたい」とした。