2014年8月8日 浅野善一

奈良県)生活保護の通院交通費支給、しおりへの記載徹底されず

生活保護のしおりへの通院交通費記載の有無
福祉事務所 有無 記載の有無に関する事務所の説明
奈良市 × 相談があれば、申請の手続きや支払いについて口頭で説明していた。近く、周知のための文書をしおりに追加する予定。
大和高田市 × 厚労省からの周知要請に対しては、当時の担当者の記憶では、生活保護受給者への家庭訪問で口頭で説明した。しおりへの記載は検討課題にしたい。
大和郡山市 × 個別に状況を聞き、必要とみられる人には口頭で説明している。
天理市 × 生活保護の開始時や相談があったときに口頭で説明している。これを機にしおりへの記載を検討している。
橿原市 × 相談があれば口頭で説明している。しおりへの記載については、分かりやすさという点で実施する可能性はある。
桜井市 しおりの医療扶助に関する説明の中で「通院に交通費が掛かる場合、一定の要件を満たせば移送費を支給することも可能」と記載。昨年から、年末の期末一時扶助の通知にも同様の記載をしている。
五條市 2010年ごろ、県の生活保護法施行事務監査の際、指導を受け、しおりに「移送費」を追加記入した。
御所市 × 相談があったときに、その都度、口頭で説明している。しおりへの記載については、厚労省の当時の通知を確認した上で、対応を考える。
生駒市 一時的扶助の主なものを列記する中に「病院に行ったり、仕事を探したり、その他必要に応じて交通機関を利用するとき」を挙げている。
香芝市 × しおりに記載しなかったのは、遠くの医療機関に行きたいという受給者が増えるのではとの懸念があったため。支給していないわけではない。今後については、県と相談するなどしながら検討していきたい。
葛城市 × 6月の県の事務監査で指導を受け、しおりに記載する方向で準備を進めている。厚労省の周知要請は強制的なものとは考えなかった。きちんと支給していたから問題ないと思った。
宇陀市 × 生活保護開始のときに口頭で説明している。7月の県の事務監査の折にしおりを提出しているが、指摘はなかった。文書による周知の予定はない。県の指示を基にやっていきたい。
十津川村 医療機関を利用する際の説明の中で「通院時の交通費についても支給されることがあるので、事前にご相談ください」と記載。
県中和 × 厚労省からの周知要請に対しては、「口頭説明でいける」「相談があればその都度、対応していこう」と判断があったのではないか。(取材の)指摘は参考にする。
県吉野 × 受給者から通院していると聞けば、申請の仕方などを説明している。生活保護は多岐にわたり、しおりには何から何まで載せられない。他のしおりも参考にしながら検討したい。

 生活保護を受けている人が通院する際の交通費が支給の対象であることを、「生活保護のしおり」などの配布文書で周知している県内の福祉事務所は、15事務所のうちの4事務所にとどまっていることが「奈良の声」の調べで分かった。厚生労働省は2010年、通院交通費の原則支給を明確にし、都道府県などに通知した際、文書による周知の徹底を求めている。

厚労省要請、県内4分の3の福祉事務所が未実施

 通院交通費をめぐっては07年、北海道滝川市で被害額が2億円に上る不正受給事件が発覚した。交通費の支給基準はそれまで、生活保護法の医療扶助基準に「移送に必要な最小限度の額」としか規定されていなかった。厚労省は事件を受け、基準を「明確化」するとして、医療扶助運営要領を改正、08年4月、都道府県などに通知した。

 ところが、改正では、支給の範囲を、災害現場や離島からの移送▽移動困難な患者の移送▽へき地で交通費が高額になる場合▽身体障害で電車やバスを利用できない場合―などに限ったため、批判が出た。厚労省は再度、要領を改正、「へき地」や「高額」の条件をなくすなどし、10年3月、都道府県などに通知した。併せて、通院交通費が支給の対象であることを、生活保護のしおりなどの文書で受給者に周知するよう求めた。

 記者は7月28日から8月6日にかけて、県内の15福祉事務所に対し、しおりへの記載の有無などを電話で問い合わせた。

 記載しているとしたのは桜井市、五條市、生駒市、十津川村の4事務所だった。桜井市は、しおりの医療扶助に関する説明の中で、「通院に交通費が掛かる場合、一定の要件を満たせば支給することも可能」と記載。生駒市は、しおりの一時的扶助の主なものを列記した中に、「病院に行ったり、仕事を探したり、必要に応じて交通機関を利用するとき」を挙げている。

 一方、記載していないとしたのは奈良市や県中和など11事務所。理由について、奈良市は「相談があれば、申請の手続きや支払いについて口頭で説明していた」、大和高田市は「厚労省からの周知要請に対しては、当時の担当者の記憶では、生活保護受給者への家庭訪問で口頭で説明した」、香芝市は「遠くの医療機関に行きたいという受給者が増えるのではとの懸念があったため。交通費を支給していないわけではない」などとした。

 ただ、記載していない事務所のうち、奈良市が市民団体「県生活と健康を守る会連合会」の要望で、近く、周知のための文書をしおりに追加する予定としたほか、天理市が記者の問い合わせを機に記載を検討するとし、葛城市も県の指導を受け記載する方向で準備を進めているとした。

 県はすべての福祉事務所に対し年1度、生活保護法施行事務監査を実施しており、この中でしおりの提出も求めている。五條市は取材に対し、「2010年ごろ、県の監査の際、指導を受け、しおりに『移送費』を追加記入した」とした。葛城市も、6月の監査で指導を受け記載を決めたとした。

 一方で香芝市や宇陀市は記載していない理由について、「県の監査でしおりを提出しているが、指導はなかった」などと答えた。県地域福祉課は、監査の際、通院交通費については適正に周知するよう指導しているとするが、「必ず記載してほしいとまでは言っていない。事務所によって受け止め方が異なっていたのかもしれない」とする。

 「県生活と健康を守る会連合会」によると、通院交通費が支給の対象であることは十分知られていないといい、また、申請しようとしても窓口で「出せない」と応じてもらえなかったりする事例もあるという。同連合会の飯尾大彦事務局長は「しおりなどで周知をしていないのは厚労省の通達に対する違反。福祉事務所には、よそも記載していないからいいだろう、という横並びの意識があるのではないか」と批判する。

 生活保護には生活、住宅、教育、医療など8種類の扶助があるが、他に臨時的な支出に応じるための一時扶助などがあり、通院交通費も別に支給される。

 生活保護は国に実施責任があり、事務は都道府県や市などが設置する福祉事務所が行う。費用の負担割合は国が4分の3、福祉事務所を設置している都道府県や市などが4分の1。本県には、各市と十津川村がそれぞれ設置する事務所が13、県が設置する事務所が2つある。県中和、吉野は十津川村以外の町村部を所管している。

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