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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

色彩基準超える建物塗り替えなし、看板撤去2件

県が景観計画の重点区域で費用助成、応募少なく

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2010年6月24日
助成制度の対象となった県景観計画の重点景観形成区域の一つ、香芝インターチェンジ周辺沿道区域=香芝市上中
 県風致景観課は昨年11月から今年3月まで県内重点区域を対象に、周囲の風景になじまない派手な色の商業施設の塗り替えや看板の撤去などの費用の半分を助成する制度を実施したが、応募が2件にとどまっていたことが分かった。予算額2780万円に対し、消化できたのは看板撤去で交付した約64万円。費用のかかる建物の塗り替えの応募がなかったことが要因だ。県は建物の色を制限するため、昨年11月1日、景観法に基づく届け出制度の運用を開始。助成は先例をつくって制度の周知を図るのが狙いだったが、事業者側は新たな出費に消極的だった。
 県は届け出制度と合わせ、県景観計画で特に重点的に景観形成に取り組む区域として、歴史遺産が集まる法隆寺地域沿道と山の辺地域沿道、県への観光の入り口となる西名阪自動車道の郡山と法隆寺、香芝の各インターチェンジ周辺沿道の計5カ所を指定した。同区域では建築面積が100平方メートルを超えるか高さが10メートルを超える建物(戸建て住宅を除く)の塗り替えや新築の際に色が制限される。
 助成の対象に該当したのは、これらの区域で県の定めた色彩基準に合っていない計20施設。また広告物については、県屋外広告物条例に基づき昨年11月1日に同様区域で指定した景観保全型広告整備地区の基準に合っていない29点が対象となった。風致景観課はそれぞれの所有者に助成制度を通知した。予算は建物の外壁や屋根の塗り替え費用に2件分2000万円(1当たり上限1000万円)、残りを広告物の撤去費用(同50万円)として見積もった。
 しかし、建物の塗り替えに応募はなく、広告物の撤去でいずれも斑鳩町内の奈良中央信用金庫法隆寺支店の屋上看板撤去と旅亭十三屋(三郷町)の沿道看板撤去の2件にとどまった。
 規制は過去にさかのぼって適用されないため、既存の建物の色や広告物は現状のままでも違反にはならない。風致景観課によると、建物の塗り替えには2000万円以上を要し、半分の助成を受けても自ら1000万円以上を負担しなければならない。同課は事業者側の反応が鈍かったことについて「景気低迷で設備投資は縮小傾向。将来改修の予定があっても前倒しをしてまではできないということだった。制度と改修時期のタイミングが合わなかった」と説明している。

 大宮通りでは9件 県・奈良市が1300年祭控え実施

 平城遷都1300年祭を前に会場への入り口となる奈良市の大宮通りを奈良らしい景観にするため、県と市は昨年6月から今年1月まで、沿道の建物の色の塗り替えや看板の縮小、撤去の費用の半分を助成する制度を実施したが、このほどその結果がまとまった。応募は9件で、予算額2000万円に対し6割の1220万円が交付された。
 予算全額の実施とはならなかったが、県地域デザイン推進課は「急な事業にもかかわらず協力的だった」と評価。事業者側の1300年祭への理解に加え、老朽化などによる改修の時期とタイミングが合ったことも要因のようだ。
 対象は、県道奈良生駒線と国道308号を合わせた区間の東は国道24号交差点から西は第二阪奈道路入り口までの約3`。建物の色は、今年4月1日に施行を控えていた奈良市景観計画の色彩基準に合わせてもらった。看板は、市屋外広告物条例が施行された平成14年度より前に設置された物について条例に適合するようにしてもらった。
 応募したのは店舗などの商業施設が主で、人形販売店は外壁の縁取りの色を青から濃い茶に塗り替え、屋上看板を撤去。レストランは屋根の色を青から黒に塗り替えた。仏具店や宅配すし店、ホテルは看板を縮小するなどした。基準は満たしているものの修景を目的に外壁や塀の色を塗り替えたビルや工場もあった。人形販売店や宅配すし店は施設の老朽化で改修などを考えていたといい、これを応募理由の一つに挙げた。

  寄せられたご感想

 記者 現場を行く ―― 幹線道や歴史的地域にピンク、赤、緑の商業施設 助成、改修の時期とタイミング合わず

 県風致景観課が助成の対象として、県景観計画の重点景観形成区域で色彩基準に合っていないとみなした建物は20施設。同課は施設名を明らかにしていないため、記者が現場で確かめてみた。
 ピンクなどの横じまのラブホテル、真っ赤なクリーニング店、緑色のゴルフ用品店、赤と青を大きく取り入れた住宅メーカー店舗、ピンクに近い回転ずし店などが該当するのだろうと思われた。店舗が集まる市街地の国道沿いもあれば、古刹(さつ)・古道に近い歴史的場所や県への玄関口となるインターチェンジの近くもある。周囲に比べ目立つ色が存在を主張していた。
 ただ、いずれも昨年11月1日の県景観条例、景観計画施行前からあったもので違反にはならない。
 これらの建物の中で塗り替えに応募した事業者はなかった。県の助成制度を当の事業者側はどう受け止めたのだろうか。該当しそうな建物の事業者に直接尋ねた。取材できた範囲で多かった声は次のようなものだ。
 「タイミングが合えばありがたい話だが、店舗の改装時期はあらかじめ決まっている。年間を通しての予算で動いており、半額でも負担になる」(回転ずし店設計部長)。「景気が悪く、出費を抑えなければならない時期」(ラブホテル店舗管理者)。「個人の店ではないので、簡単にすぐに対応できるものではない。本社の決裁が必要。費用を伴うので現状のままいけるならそのままいきたい」(ゴルフ用品店支店長)。
 行政からの情報不足に対する不満の声もあった。
 「会社のカラーを生かすため、県の風致地区を避けて開店したばかり。そのすぐ後に補助金を出すと言われても。事前に分かっていたらこの場所で店を出さなかった」(住宅メーカー支店長)というものだ。
 ただ、色彩の制限そのものに対しては「奈良は歴史ある所。改修の際には基準に従いたい」(回転ずし店設計部長)のように目立った反発はなかった。
 企業側に大きな支出を伴う助成制度の場合、企業側のスケジュールを考慮することも必要に思われた。
 一方、県と奈良市が平城遷都1300年祭を前に大宮通りで実施した助成制度には予算枠の半分強を消化する応募があった。事業者が応募を決めた理由は何だったのか。
 「店が平城遷都1300年祭会場のすぐ近くということに加え、屋上看板の取り外しや老朽化した外壁の塗り替えも考えているところだった」(人形販売店社長)。「県外から訪れるお客さんの目に付く所に店舗があるが、古くなり建て替えも考えていたところでありがたかった。奈良の景観を整備するという趣旨も理解できた」(宅配すし店担当者)。
 助成の時期にちょうど建物の改修を考えていた事業所があったことも応募を増やす要因になったようだ。
 今、私たちの周りでは、幹線道路沿道にいまだ派手な色の看板や建物があふれる一方で、市街地では抑制の効いた看板も目にするようになった。
 いずれも大宮通りだが、開店したばかりの牛丼店吉野家の看板はこれまで見てきたものと違って、シンボルカラーのオレンジ色の面積が抑えられている。コンビニエンスストアのファミリーマートは建物上部に施したシンボルカラーの緑色の明るさを抑えている。奈良市の協力依頼に応えたものだが、「企業側も古都らしい景観のため努力している」(市景観課)という。
 「景観は公共の利益」(県風致景観課)だという。そんな意識が広まれば、法的な規制のみによらない、まちづくりが進むのだろう。(浅野善一)
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