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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

「地元農家の合意ない」農業委員

堅牢な「不開示」情報、試される参加型行政

大和都市計画の線引きが大詰め

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2010年9月9日
「線引き」をめぐる合意形成のあり方に厳し い意見が出た公聴会=8月28日、奈良市上三 条町の市中部公民館
 県内の市街化区域や用途地域を定めた大和都市計画のおよそ10年ぶりの見直しをめぐり、県の最終作業が大詰めを迎えている。関係住民にとっては、暮らしを取り巻く環境が激変しかねない一大事。公聴会では「合意形成が不十分」とする厳しい意見や、農業への強い意欲を示して市街化編入に反対する農家の意見などが相次いだ。住民参加の時代に、行政の意思形成過程情報の公開が注目される中、都市計画の線引き原案策定までの過程の情報は、依然として堅牢(ろう)な「不開示」。周辺を取材した。
 開発が抑制されている県内の全市街化調整区域のうち274ヘクタールについて、開発が容易な市街化区域に編入するなどの今回の線引き案。県は先月28、29日の2日間、原案に対する公聴会を開催したが、奈良市内の住民や地権者らから厳しい意見が相次いだ。
 同市古市町で農業を営む複数の農家が高い営農意欲を示し、市街化編入に強く反対する意見を公述。「寝耳に水の線引き」「行政は開発者とばかり相談している」などの批判も出た。公選の農業委員も公述し「地元農家の合意がない」として、原案の撤回を求めている。調整区域が市街化区域に編入されると、農家は宅地並み課税を強いられ固定資産税が上昇。生産緑地を選択する方法もあるが、専業農家にとっては環境が激変する。同所では大型小売店が出店を予定している。
 また、奈良市二名3丁目の市街化編入をめぐっては、県原案が初めて公表された先月3日よりかなり以前の6月18日、同所に出店を予定する24時間営業の大型小売店が、具体的な建設場所を住民に示しながら、公民館で説明会を開いていた。隣接地の住民は「順序が逆ではないのか。なぜ出店の説明会が先にあり、われわれ住民が後から県の原案を知ることになるのだ」と、もどかしい思いで公述をした。
 事実、これら二つの地域で、水面下の出店計画はかなり進んでいると見られる。県の原案によると、市街化調整区域から第2種住居地域に線引きされており、1万平方メートル以内の店舗進出が可能になる。決定になれば、農業者や周辺住民を取り巻く環境は大きく変化する。しかも合意形成の痕跡は乏しい。
 当該地域の原案を事実上、作成したのは奈良市。日ごろは参加や協働を重視しているが、こうした公聴会の声をどう受けとめているだろうか。市都市計画課は「原案の公表前に、意思形成過程の情報を表に出すと、混乱が大きくなる」と話し、歯切れが悪い。懸案の線引きカ所は、前の藤原昭市長が決定し、仲川元庸市長も今年6月25日に了承し、開発にゴーサインを出した。
 同課によると、今回の都市計画の見直しをめぐり、2008年9月の広報「奈良しみんだより」で要望を募ったところ、出店のため市街化編入を求める開発者の意見が寄せられたという。その2カ月後、開発者の意向に沿った市の線引き案が県に提出された。
 奈良市内で今回の線引き案の対象になったのは、20地区の533世帯。県の基本方針が08年夏に打ち出された後、県素案が固まる09年7月までの間、地域の合意形成に向けての話し合いの場を持つことは、市長選の期間を差し引いたとしても、その気になれば可能だったと見られる。
 都市計画の線引き作業は通常、直接の地権者以外には秘密裏に進めていくことが行政の慣行のようだ。県地域デザイン推進課・都市計画室の主任調整員武田光哲さん(土地利用担当)は「素案段階の情報は、県民が情報公開請求をしても、不開示になる。表に出したら混乱を来す」と話す。公開推進の機運の中、予算編成過程などの公開が期待されるが、都市計画の情報はいまだに堅牢な不開示の分野といえる。
 一方、こうした意思形成過程の情報を、表に出した方がいいという声も、一部の行政関係者にはある。県外の職員の声だが、「行政内部にはさまざまな意見が存在することを住民に知ってもらう良い機会。論議の質が高まる」「公開しながら物事を進めると、職員が汚職に巻き込まれることを防止できる」などの見方だ。
 およそ10年ぶりとなる奈良県の線引き見直し。今回、県の意向を反映した線引きは、工業系の立地を強化する大和郡山市内の土地と県立奈良病院移転候補先の奈良市内の土地などに限られ、残る大半は、市町村が主体となって合意形成に努めるべきものといえる。
 公聴会で出されたさまざまな意見。開発を抑制する意見は、生駒市民などからも出た。公述に対する市町村長らの見解などを参考に、県の作業はいよいよ大詰めを迎える。都市計画審議会での審議や国土交通相の同意などの手続きを経て、県は年度内の線引き決定を目指す。(浅野詠子)
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