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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

奈良・平城宮跡 建物復元の是非 市民、批判的専門家の見解知る機会乏しく

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2013年3月20日 浅野善一

 〈視点〉奈良県奈良市の平城宮跡(特別史跡)で進められている建物の復元に対し、専門家として批判的立場を取っている上野邦一・奈良女子大学名誉教授の講演があった。上野名誉教授は、復元にはさまざまな限界があることを指摘した。復元を進める国土交通省が関連のホームページなどで提供する情報にはない視点だった。市民は、復元に批判的な専門家の見解を知る機会が乏しく、復元の是非について考える機会を奪われている、との思いを強くした。

 講演は今月17日、市民団体の「奈良世界遺産市民ネットワーク」が奈良市内で開いた総会で行われた。上野名誉教授は、平城宮跡の発掘調査を行っている奈良文化財研究所に長く在籍し、建造物の研究を担当、東院庭園の復元にも関わった。

 指摘は次のようなものだった。復元される建物は、いくつか想定されるもののうちの一つにすぎない▽変遷を続けた平城宮の特定の時期のものである▽推定部分の意匠は現代の美的価値観が影響している―など。当時の建物について残っているのは発掘調査で見つかった柱の跡が主で、その上にどんな建物があったかは現在残っている奈良時代の寺などから推定するしかないためだ。

 例えば、重層で復元された大極殿は単層だった可能性もあり、厳密にはどちらか分からないとした。これから復元される第一次大極殿院の築地回廊は、計画では正面に南門のほか東西の楼閣を置く。一方、奈良時代当時は当初、南門しかなく、楼閣は後で造られたことが分かっている。復元が楼閣を備えたものになるのは、より豪華だからだろう、とした。

 建物の意匠についても、朱雀門の屋根の勾配は復元されているものよりもっと緩かったのではないかとした。奈良時代の唐招提寺金堂の屋根の勾配は現在よりもっと緩く、中世に高くしたことが分かっているという。屋根が急傾斜で立ち上がっている方が見た目に良いと考えるのは、現代の価値観とした。

 上野名誉教授は復元に伴う問題点について、確実でない部分を確実であるかのようにしなければならない▽平城宮の一時期のものしか復元できないため、見る人に一つの知識しかもってもらえないうえ、それが奈良時代全体を通して存在したかのような誤解を与える―とした。

 これに対し、国交省や文化庁、県は初めに復元ありきだ。

 宮跡の国営公園化に伴い、国交省は2008年、公園基本計画策定に当たってパブリックコメントを実施。建物を復元すべきでないとする意見に対しては、「文化庁が策定した平城宮跡保存整備基本構想推進計画の内容を踏まえつつ、往時の平城宮のありさまや広がりなどを理解するきっかけとなるきっかけとなる一定の施設整備とその活用を図ることが適切である」と回答している。復元の是非については決着が付いているということだ。

 文化庁の見解もある。朝堂院広場の舗装に対し反対の声が上がっていることを受け、国交省が昨年11月、住民を対象に開いた説明会でのこと。同庁担当者は、復元に対し反対意見があることは承知しているが、発掘調査の成果を分かりやすく紹介するためには必要、と述べている。

 ならば、平城宮跡を訪れる人たちの意識はどうか。奈良文化財研究所などがまとめた「特別史跡平城宮跡平成15年(2003年)度秋季及び冬季利用実態調査報告書」のアンケート調査では、「あまり手を加えず、現在の自然や歴史資源を保存する」という現状凍結型が51.2%と半数を超えている。奈良市民に限ればその割合は59.9%に上る。

 基本計画の根拠になっている奈良文化財研究所の平城遺跡博物館基本構想案を既定路線にするのはいかがなものか。案が作られたのは1977年、30年以上も前のことで、行政への住民参加の考え方も広がっていなかっただろう。国交省や文化庁、県はいま一度立ち止まり、復元の功罪両面の情報を市民に提供し、市民が是非を判断する機会を設けるべきだ。それが全体の奉仕者としての行政の責任だ。

 建物が復元されるのは、奈良時代の前半に平城宮の中核施設であった第一次大極殿院など。これまでに朱雀門と大極殿が完成した。今後、最大の事業となるのは大極殿を囲む築地回廊の復元。費用は数百億円に上ると見込まれている。復元の一環として、草地だった朝堂院広場を舗装する計画に対しては、反対運動が起きている。復元の目的は県の観光振興にあり、国営公園化を実現させた荒井正吾知事が推進役になっている。

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