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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

奈良・平城宮跡、自然豊か 鳥65種・植物365種、ツバメのねぐらやカヤネズミも 国交省が環境調査

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2013年5月9日 浅野善一
平城宮跡のアシが生えそろい始めた池。夏にはツバメの集団ねぐらになる=2013年5月8日、奈良市佐紀町

 広大な草地の自然や景観が市民らに親しまれている奈良県奈良市の平城宮跡(特別史跡)。その中心部を舗装する計画の是非をめぐって論議が起きている。宮跡ではどんな生き物や植物が見られるのだろうか。宮跡の国営公園整備を進めている国土交通省が毎年実施している環境調査の報告書を、記者が開示請求して得た。調査の対象は、野鳥や植物、近畿で有数の規模のツバメの集団ねぐら、奈良県版レッドリスト希少種のカヤネズミなどだ。

 開示請求したのは2010、11、12年度の平城宮跡歴史公園環境モニタリング業務報告書。調査は平城宮跡とその周辺を対象に07年度から実施されている。目的は、確認された重要な種の状況を監視するとともに、公園整備に伴う影響を把握し、保全対策の検討に生かすこと。種の保存法や環境省レッドリスト、近畿地区・鳥類レッドデータブック、奈良県版レッドデータブックなどが選定している種を「重要種」としている。

 開示された報告書のうち、「重要種」が確認された場所が特定できる情報など一部は、こうした種の保護などを理由に非開示だった。

 最も新しい12年度版の調査は昨年春から本年初頭にかけて実施された。

平城宮跡とその周辺で確認された鳥の種類の数
  2010年度 2011年度 2012年度
全種 63種 41種 65種
うち重要種 18種 11種 27種

 それによると、鳥は春・秋・冬を通して65種が確認された。宮跡内では、ツグミやホオジロ類、ヒバリなどの草地性の種が多かった。このうち「重要種」は27種で、宮跡内では、ベニマシコやセッカ、オオヨシキリなど、主に草地性の種が確認された。冬には、ハイタカやチョウゲンボウが草地で餌を探す様子が確認された。

平城宮跡とその周辺で確認された植物の種類の数
  2010年度 2011年度 2012年度
全種 494種 467種 報告なし
うち重要種 15種 20種 14種

 植物は、宮跡内と周辺を合わせて春・夏・秋を通して「重要種」14種が確認された。宮跡内では、タデ科のヤナギヌカボやサデクサ、キク科のオグルマ、ラン科のシュンランなどが確認された。全種の植物については、12年度版には報告がないが、11年度版では夏・秋・早春を通して467種が確認された。このうち宮跡内は365種だった。

 一方、外来植物は、宮跡内と周辺を合わせて71個所で確認された。宮跡内で最も多かったのはセイタカアワダチソウだった。外来生物法で栽培や保管が禁止されている特定外来生物に指定されているアレチウリも確認された。

平城宮跡のツバメの集団ねぐらの最大時の規模
2009年度 2010年度 2011年度 2012年度
約1万5000羽 約1万7000羽 1万3600羽 2万1316羽

 ツバメの集団ねぐらは、子育てが終わった成鳥や独り立ちした若鳥が夏、南方へ渡る前に形成するもので、平城宮跡の第一次大極殿院西側の池のアシ原がその場所になっている。調査は昨年7、8月に4回、目視観察を実施し、8月10日に最大の2万1316羽が確認された。

平城宮跡のカヤネズミの生息状況
  2010年度 2011年度 2012年度
確認巣数 9個 117個 76個
7個 41個 134個
確認個所数 6カ所 43カ所 47カ所
4カ所 29カ所 60カ所
2011年度秋は巣の確認個所の一部で草刈りが行われた

 カヤネズミは世界最小級のネズミで、大きさは人の親指程度。日本では宮城県以南に分布し、イネ科の植物の原で地上1~2メートルの高さに野球ボール大の球巣を作る。昨年夏の調査では、宮跡内の47カ所で76個の球巣が確認され、同年秋は60カ所で134個が確認された。

 このほか、水路ではメダカやヘイケボタルの飛翔も確認された。メダカは奈良県版レッドリストで希少種に選定されている。

 同省近畿地方整備局国営飛鳥歴史公園事務所平城分室は取材に対し、「平城宮跡の自然は豊か」とした上で、「報告書を基に、カヤネズミの生息環境を壊さないよう、草刈りは年2回の子作りの時期を外している。ツバメのねぐらとなっているアシ原は現在の状態が残るよう意識している」とした。

 同省が現在進めている第一次朝堂院広場の舗装計画では、約4万5000平方メートルの草地が消える。また、2010年の平城遷都1300年祭を前に第一次大極殿前の広場がアスファルト舗装され、朝堂院広場とほぼ同規模の草地が消えている。

 同分室は、大極殿前の広場の舗装について環境への影響は特になかったとし、朝堂院広場についても「もともと湿地だったため豊かな生態系ではなかった。重要種のある所ではなかった」とした。

 本年1月から3月にかけて実施された調整池の整備では、ツバメのねぐらとなっているアシ原のある二つの池の周囲に盛り土をして堤を巡らした。公園整備に伴うもので、県の基準に基づいて50年に1度の確率で想定される大雨に備えるというもの。ツバメのねぐらなどへの影響を懸念する声があるが、同分室は「通常は水の流入量も、池の水量も、これまでと変わらない」とした。

 しかし、同調整池の整備では、堤を巡らした池のさらに北にあるレンカク池の近くの木立が約1000平方メートルにわたって伐採された。関連する水路を拡幅する工事のためだったというが、日本野鳥の会奈良支部長らからは「多くの野鳥が訪れる常緑樹林だった。残してほしかった」などの声が上がった。 

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