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拠点・奈良県奈良市 運営者・浅野善一

奈良県市町村総合事務組合 仕組債損失問題を問う―記者の住民訴訟(2) 住民監査請求、手探り 問題うやむや見過ごせず

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2013年5月13日 浅野善一
記者が作成した奈良県市町村総合事務組合への住民監査請求の請求書の写し(右下)と組合監査委員による監査結果(左上)

 一部事務組合への住民監査請求はできるのか。取材した記者自身による請求への道のりは、そんな初歩的なことから始まった。全くの手探りだった。

 奈良県市町村総合事務組合が仕組債で損失を出したことをつかみ、第1報を載せたのは2012年6月15日。当初は住民監査請求や住民訴訟など念頭になかった。個人運営のインターネット新聞であっても、報道を重ねるうち次第にニュースが広まり、それが世論を動かし、世論が組合を動かすと考えていた。

 10月までに13本のニュースを載せた。9月には新聞数紙の報道もあった。しかし、組合は問題の調査、解明に取り組もうとしなかった。住民への説明責任も果たそうとしなかった。損失額の20億円は県内の村の財政規模に匹敵する。例えば、組合を構成している市町村の一つ、御杖村の2013年度一般会計予算は20億2500万円。このままでは、地方自治法などに違反している可能性のある問題が全く問われることなく、うやむやになってしまう。見過ごせなかった。

 奈良県で、県や市町村への住民監査請求はしばしばあるが、一部事務組合への請求はほとんど記憶になかった。組合が仕組債を保有しているという情報を独自に得て、「奈良の声」に提供した奈良市の加門進二郎さん(68)は、地方自治などが専門の大学教員に一部事務組合への住民監査請求が可能かどうかを尋ねたことがあった。無理であるような返事だったという。その話を早くに加門さんから聞いていた。

 調べるうち、一部事務組合への住民監査請求は全国に多くの例があることが分かった。県内では、2005年に発覚した中和広域消防組合の消防士不正採用事件をめぐる住民監査請求、住民訴訟がそうだった。

 住民監査請求は、地方自治法242条で普通地方公共団体の都道府県、市町村の住民に認められた権利。一方、一部事務組合などの特別地方公共団体の構成員は地方公共団体とされ、固有の住民を持たない。しかし、特別地方公共団体には同法292条により普通地方公共団体の規定が準用されることなどから、一部事務組合についても構成員の地方公共団体の住民に住民監査請求が認められていると解釈されている。

 その上で、県市町村総合事務組合への住民監査請求には関門が二つあると考えられた。

 一つは、請求者となる記者が住民という要件を満たしているかどうかという点。損失は組合の退職手当基金で発生した。県市町村総合事務組合の主な仕事は、県内の市町村職員などの退職手当支給事務。市町村などが毎年支出する負担金を資金として手当を支給し、余った資金を退職手当基金として積み立てている。記者が住む奈良市は組合の構成員ではあるが、退職手当支給事務の共同処理には参加しておらず、負担金を支出していない。

 県内のある市の監査委員事務局に意見を求めた。事務局の見解は、利害関係者、つまり退職手当負担金を支出している市町村の住民でなければ請求できないのでは、というものだった。総務省市町村体制整備課にも問い合わせたが、一向に返事は来なかった。

 手元の地方自治法の解説書にヒントがあった。住民監査請求をするのに、当該の地方公共団体への納税義務があるかどうかは問われない、とあった。同法242条は、請求権者を「普通地方公共団体の住民」とし、請求の対象となる行為を「当該普通地方公共団体の違法もしくは不当な公金の支出、財産の取得、管理もしくは処分」と規定しているのみで、請求者に納税義務などの負担があるかどうかや、当該の公金や財産の性質、目的が何であるかは問うていない。組合を構成する市町村の住民であれば十分であると、主張することにした。

 もう一つの関門は監査請求の期間。請求は原則として、当該の財務会計行為から1年以内に行わなければならないが、大半の仕組債は元本割れをもたらした売却から1年を超える期間が過ぎていた。ただ、地方自治法は例外も認めている。同法242条は「正当な理由があるときは、この限りでない」としている。組合は仕組債の保有について公表していなかったうえ、情報公開制度も制定していない。住民が相当の注意力をもって調査しても、相応の期間内に請求対象の事実を知ることはできなかった、と主張することにした。

 12月17日、請求書を発送した。組合が受け付けるかどうか分からなかった。配達の記録が残るよう一般書留を利用した。19日、組合に電話で到着を確認した。住民監査請求をすることは事前に伝えていなかった。事務局は「退職手当負担金を支出していない奈良市の住民が請求をできるかどうか」と言った。気になった。もしこれが提出前の問い合わせの段階での発言だったら、住民はどう受け止めるだろうか。それであきらめてしまえば、権利を制限してしまったことになる。

 組合への住民監査請求は、前身の県市町村職員退職手当組合の1962年の設立以来、恐らく初めてだったのではないか。事務局の担当者は「私も初めての経験」とした。

 住民監査請求で組合監査委員に求めたのは、退職手当基金の運用で投機性が指摘されている仕組債を購入し、売却による元本割れで20億円の損失を出したのは、現金の確実な保管を定めた地方自治法などに違反するから、現管理者の小城利重・斑鳩町長が仕組債購入時・売却時の組合管理者ら職員に対し損害賠償請求をするよう勧告すること。

 請求は受理された。1月23日、連絡があった。取りあえず却下(門前払い)は免れたが、請求書の提出からすでに1カ月余りが過ぎていた。監査は請求があった日から60日以内に行わなければならないから、監査委員は2月14日までに結論を出さなければならない。請求者の意見陳述は2月8日に橿原市の組合事務局であった。残りわずか1週間で十分な検討ができるのか。請求の扱いについて判断が遅くなったのはなぜなのか、意見陳述を終えた後、その場で事務局に説明を求めた。

 事務局は理由について、請求者の住所が住民としての要件を満たしているかどうか、その判断で時間を要したと明かした。こちらが関門と考えていたことは、組合監査委員にとっても容易に答えを出せない問題だった。事務局は受理に至った経過について、「国や県、組合顧問弁護士に問い合わせたが、いずれの見解も『どちらともとれる。受理するかどうかは監査委員の判断次第』というものだった。これを受け、監査委員は『ならば弾力的に対応しよう』と受理を決めた」と説明した。

 請求書提出後にようやくあった総務省の回答も「受理されるかどうかは監査委員の判断」だった。

 監査結果は棄却だった。2月15日、通知が届いた。少なからず棄却は予想していた。気持ちはすでに住民訴訟の準備へと切り替わっていた。

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