2013年11月6日 浅野善一

奈良県:奈良の墓地、寺が許可取得も販売権は石材業者に 市条例は「名義貸し」を禁止

墓地を販売する権利が許可申請者の寺ではなく石材販売業者にあった奈良中央墓園=2013年10月31日、奈良市白毫寺町

 奈良市の許可を受け2009年9月に開業した同市白毫寺町の奈良中央墓園の墓地を販売する権利が、許可申請者の寺ではなく石材販売業者にあったことが分かった。市墓地経営許可条例は、墓地経営を地方公共団体または市内の宗教法人、公益法人、地縁団体に限って認めており、他人に経営を行わせる名義貸しを禁止している。墓地ビジネスの一端が見えた。

 墓園は広さ約7500平方メートル。ホームページなどによると、90センチ四方の区画が3552あり、価格は1区画当たり25万円以上。宗派などは問わないとしている。同市紀寺町の浄土真宗本願寺派・宝珠寺が08年12月、許可を受けた。条例は墓地埋葬法に基づいており、許可条件を、経営の永続性、公益性を有し、営利を目的としないと認められるとき、としている。

 記者は、市情報公開条例に基づいて同墓園の経営許可に関する文書の開示を受けた。寺が提出した墓地の需要見込みや墓地経営申請理由書は、檀信徒の墓地不足に対応するため墓地を計画したとした。県内の近隣4カ寺の墓地不足を補う目的もあるとした。

費用負担の代償、設計会社と協定

 しかし、宝珠寺に墓地の販売権はなかった。寺は大阪府東大阪市の畿央設計と協定を結んでいた。同社が、土地の取得から市への申請手続き、土地の造成、管理事務所の建設まで墓地開発を全面的に受託し、費用を全額負担、その代償として墓地の永代使用料の全権利、永代使用権証書を発行する権限を譲り受けるというもの。同社は墓地の永代使用権を石材販売業者10社に販売した。販売総額は8億円を下らないとされる。業者ごとの内訳は1000区画が1社、500区画が3社などで、この4社で同墓園石材協力会が組織された。協力会が実質的な経営主体となった。

 一方、寺が協定で得た権利は冥加金500万円のほか、墓石開眼法要や一般法要による宗教的利益、建墓手数料1件当たり1万円または2万円など、付随的なものだった。

根抵当権設定で土地が競売寸前に

 同墓園の開業後、土地の所有権をめぐる問題が起きた。土地が競売寸前になった。登記簿によると、畿央設計は07年7月に土地を取得。08年6月、所有権は宝珠寺に移ったが、同年7月、同社を債務者とする極度額1億2000万円の根抵当権が設定された。その後も同社を債務者とする別の抵当権や根抵当権が設定された。同社は10年5月ごろ、銀行取引停止処分を受け、事実上倒産。根抵当権の債権者である金融機関は10年6月、奈良地裁に土地の競売を申し立てた。

 石材協力会のうちの3社は墓園を維持するため、宝珠寺から7200万円で土地を買い取った。墓園の経営主体を宝珠寺から別の宗教法人に変更することに、同寺が協力することが売買の条件だった。代金は債務の弁済に充てられ、競売申し立ては取り下げられた。10年9月、土地の所有権は3社に移った。3社は11年8月、所有権を大阪市の聖b寺に移した。同寺は、3社のうちの1社の代表者が代表役員代務者を務める宗教法人。

 こうした事実がこの後、宝珠寺と石材販売業者や聖b寺の間で起きた複数の裁判の中で明らかになった。記者は大阪高裁で裁判記録を閲覧した。一方、記者が開示を受けた寺の許可申請書類などからは、畿央設計と寺が結んだ協定の存在は確認できない。

 市は、土地の所有者が墓地経営を許可した寺ではなくなったことから、宝珠寺に対し、所有権を取り戻すよう指導した。一方、聖b寺は11年夏、市に対し、同墓園を経営したいと申し入れたが、市は条例により市外の宗教法人には認められないとして拒否した。宝珠寺は11年11月、石材販売業者や聖b寺を相手取り、土地の売買契約は無効として登記の抹消を求める訴えを奈良地裁に起こした。同地裁は、売買契約を無効とする理由はないとして請求を棄却。宝珠寺は控訴したが、大阪高裁は13年6月、請求を棄却。同寺が上告しなかったため、判決は確定した。

確約書提出も果たされず

 市によると、土地に対する根抵当権の設定は、08年7月の墓地経営許可申請の事前協議開始時に、宝珠寺から提出された登記簿にはなかった。ところが、ほぼ同時期に根抵当権が設定されていたことが、後で分かったという。

 市が記者に開示した同墓園の許可に関する文書には、宝珠寺が提出した念書や確約書もあった。それによると、08年10月、市は寺に対し、墓園の工事完了検査までに根抵当権を解除するとした念書を提出させた。しかし、09年9月の検査までに約束は果たされなかった。市はあらためて、この日から3カ月以内に解除するとした確約書を提出させたが、これも果たされないまま競売が申し立てられる事態に至った。

 厚労省が自治体向けにまとめた墓地経営・管理の指針は、名義貸しと考えられる問題例を挙げている。寺に対して石材店などが墓地経営の話を持ちかけ、寺は資金その他について石材店などの全面的な支援を得て墓地経営の許可を受ける。ところが、墓地使用権の販売をはじめとした墓地経営について寺は実質的に関与しないという取り決めが、石材店などとの間で交わされている。石材店は墓地使用権と共に墓石を販売して多大な収益を得るが、その収益は一部を除いて寺の収入とならない―というものだ。

 指針は土地についても自己所有が原則であるべきとし、抵当権などが設定されている場合は墓地経営開始時までに解除させることが必要としている。抵当権などの設定を認める場合でも、許可後、一定期間内に解除することを条件とすることが必要としている。

取り消し難しく

 墓地経営許可を担当する市生活衛生課の鈴木啓也課長補佐は「寺が土地の所有権を持っていないというのは大変よろしくない。名義貸しに近い状態になっている」とする。とはいえ、許可申請当初から、宝珠寺に経営主体としての実態があったのかも疑問だ。市は現在、寺に対し、墓地を経営していく能力があるかどうか文書で確認している。裁判の結果などから、同寺が土地の所有権を取り戻せる見込みはなく、状況は厳しい。

 同墓園には現在、かなりの区画に墓石が立っている。いったん経営が始まった墓地の許可を取り消すのは難しい。鈴木課長補佐は「すでに墓地を買った人が大変な不利益を被ることになる」とする。許可した市にも、墓地を買った人に対する責任があるといえる。宝珠寺が経営を継続できない場合、新しい経営者を探すことになるという。一般的には、現在の経営者に許可処分廃止の申請をしてもらい、新しい経営者にあらためて許可申請をしてもらうことになる。

 宝珠寺を訪ねた。代表役員は寺ではなく、近くの集合住宅に住んでいた。インタホンに出た男性は「弁護士に任せているので」とだけ答え、後は応答がなかった。石材協力会の主幹会社とされる大阪府豊中市の業者に電話取材した。墓地経営の許可は宝珠寺が受けているが名義だけではなかったのか▽畿央設計から永代使用権を販売する権利を買ったか―について尋ねた。同墓園の担当者は「社外秘なのでお答えできない」とするのみだった。

 畿央設計の所在地は、事実上倒産した10年5月ごろには奈良市内に変わっている。所在地名にある場所を訪ねるとマンションがあった。入り口の郵便受けの一つに同社の名前があったが、部屋番号の記載がないうえ、社名を掲げた部屋も見当たらず、事務所を確認することはできなかった。

市「墓地は不足」

 奈良市内の墓地の供給は十分ではないとされている。鈴木課長補佐は「市営墓地の募集が少なく、不足していることは想像できる」とする。市生活環境課によると、市営墓地は五つあり、区画数は計3999。このうち二つの墓地で空きが出た分について利用者を募集している。募集は年に1度で競争率は毎回20倍前後に上るという。今年度の募集は8区画だ。

 市への墓地経営許可の申請は何年かに1度という程度という。他市では公営墓地が充実していることから、新たな墓地を認めていない例もあるというが、奈良市は条例に則った申請があれば許可する方向であるという。ただ、今回の問題を踏まえ、「申請を受けた際には檀家の需要なり墓地の必要性はどうか、土地に抵当権がないか、しっかり確認していきたい」(鈴木課長補佐)としている。

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