身近な水辺空間として県民に親しまれている県内各地のため池。多くの場合、転落防止さくが設置されているが、工夫次第で景観への影響を抑えられることが分かった。
県の景観保全地区にも指定されている橿原市鳥屋町の鳥屋池では、さくが護岸の内側、水際近くの低い位置に設置され、池の外からは見えないようになっている。護岸の草刈りがしやすいようにと維持管理を理由に採られた方法だが、景観に配慮したため池のさくの設置方法として今後、参考になりそうだ。
鳥屋池は広さ約3万3000平方メートル。新沢千塚古墳群や貝吹山(210.3メートル)を中心とした貝吹山景観保全地区に含まれている。
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水際近くの低い位置に設置された転落 防止さく |
農林水産省近畿農政局防災課によると、設置されたさくは金属製のネットフェンスと呼ばれる種類で、2005年3月、池の北側護岸に120メートルに渡って設置された。高さ1.2メートルで、景観に配慮して茶色になっている。さくの最上部が護岸の最上部とほぼ同じ高さになっているため、池の外からは護岸の内側にあるさくがほとんど見えない。近畿農政局が設置し、地元の鳥屋池郷水利組合に引き渡した。それ以前、さくはなかった。
一般的にため池の転落防止さくは護岸の最上部に設置される。しかし、これだとさくの付近では草刈り機が使いにくい上、さくの内側での作業では池への転落の危険もあるという。水利組合のこうした声を受け、結果として池の水際近くの低い位置に設置された。現在、県内にある近畿農政局が設置したさくでは、こうした例はほかにないという。関係者は「結果的にさくが見えなくなったのは景観上も良かったのでは」と評価する。
農村地帯である鳥屋町では自治会を中心に「美しい鳥屋町を守る会」をつくって活動を展開している。町自治会総代の服部欣也さんによると「9割以上が兼業農家だが、休耕田を増やさない取り組みや休耕田の草刈り、花の植栽などで耕地を荒廃させないように努めている」という。景観の保全に関心ある地域だ。東隣の白橿町は大きな新興住宅地で犬の散歩で住民がよく訪れるが、景色を褒めてくれることもあると、服部さんは言う。
関西などため池の多い地域では、農業衰退の一方でため池の景観などの価値が見直されており、農林水産省は全国から募集して「ため池百選」を選定、ことし3月発表した。ため池のさくは事故防止などを目的に設置されるが、景観上は見栄えが悪いことも少なくなく、こうした見直しの動きの中で設置の仕方に工夫を求める声もある。