地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

絶滅危惧種のハヤブサ、子育てとひなの成長追う

大阪交野「府民の森」で6年間

隣接、生駒の与名さんが写真集

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2011年1月23日
写真集「森のハヤブサ」
与名正三さん
 生駒市小瀬町の野鳥写真家与名正三さん(59)が同市に隣接する大阪府交野市の「府民の森」で6年間にわたり、一組のハヤブサのつがいをカメラで追い、写真集「森のハヤブサ」として出版した。子育てやひなの成長の過程を知ることのできる一瞬一瞬が収められている。ハヤブサは環境省のレッドリストで絶滅危惧Ⅱ類(絶滅の危険が増大している種)と判定されており、行動や生態を記録した写真集は生息環境を考えるのに役立ちそうだ。
 ハヤブサはワシ・タカの仲間で全長34~50センチ。本来は海岸線に生息する。与名さんは「府民の森」に営巣地があることを知り、異なる環境で何を餌にして、どのように子育てするのか興味を持った。海岸線では餌となる鳥に逃げる所がなく、狩りが容易という。ハヤブサは海岸線で生態系の頂点にある。一方、森では餌となる鳥に隠れる場所があり、狩りが難しい。競合する鳥もいる。同じ猛きん類のオオタカが生態系の頂点にあり、天敵となる。にもかかわらずハヤブサが森にやってきたのは、海岸線の開発で営巣できる崖地が減っているためではないかとする。
 撮影した営巣地があるのは採石場跡を利用したロッククライミング場の跡地。地上50~60メートルの崖地にある。撮影には2004年から2010年まで取り組んだ。ハヤブサのつがいは最初の3年間、繁殖に失敗した。子育てを見ることができたのは4年目以降だった。ひなが毎年3羽ずつ誕生した。
 収めた写真は約90点。父親がひなに餌を渡すとき獲物の鳥に逃げられたことがあった。生きたまま渡していることが分かった。子と子はじゃれ合いながら攻撃の練習をする。羽をはばたかせて食べ残した餌の上に積もった羽根を吹き飛ばす知恵もあった。餌を見つけられなかったときの行動だ。天敵を避けるため、餌は空中で受け渡しをする。子は親鳥のやり方を見てそれを学習する。子が足で木の葉をつかんで飛ぶのは、空中で親から餌を受け取るための練習である。親鳥は子を自立させるのに必死だという。
 このほか、写真にはサクラ、ツツジ、木々の緑、紅葉、雪など季節感も織り交ぜた。  撮影3年目に母親とひな2羽が巣から崖下に落ちて死んだことがあった。原因を確かめるため、大学に持ち込んで調べてもらったところ毒物が検出された。与名さんは、ハヤブサが餌にしている水鳥が農薬に汚染されていたのが原因ではないかと推測した。
 与名さんは「森は海岸線と違って観察がしやすい。これまでできなかった、本来はできないような詳しい記録ができた。たくさんの疑問も提供している。例えば、獲物の鳥を運ぶとき頭部を切り取ってしまうことなど。ハヤブサの名前は知られているが、実際の生態は知られていない」と撮影の成果を強調している。
 写真集は東方出版、B5判変型、70ページ、1575円。(浅野善一)
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