奈良市法華寺町の市立一条高校前、国道24号をまたぐ一条歩道橋。手すりが低くいのではないか―渡るたびに転落の不安を感じてきた記者は、手すりの高さに問題がないか取材した。すると、歩道橋の手すりはほかの転落防止を目的とした手すりの基準に比べ、必要な高さが低く設定されていることが分かった。また、一条歩道橋の手すりの高さが県内の多くの歩道橋の水準を下回っていることも分かった。
同歩道橋を管理する国土交通省近畿地方整備局奈良国道事務所は記者のこうした指摘を受け、26日までに手すりの高さを現在の1.06メートルから1.2メートルにかさ上げすることを決めた。
記者は身長168センチ。一条歩道橋に立つと上半身のかなりの部分が手すりの上になり、転落の不安がある。一方、同歩道橋の南200メートル余り、同じ国道24号をまたぐ菰川歩道橋は、手すりの高さが1.2メートルで胸の所まであり、こちらでは不安はない。
国交省は「立体横断施設の設置基準」で手すりの高さを1メートル以上としており、一条歩道橋はこれを満たしている。しかし、同省は同じ転落防止という目的でありながら、転落の危険のある道路の歩行者用手すりや建物のバルコニーの手すりなどについては、「防護柵(さく)の設置基準」や建築基準法施行令第126条で、いずれも必要な高さを歩道橋より10センチ高い1.1メートルとしている。
奈良国道事務所の歩道橋の台帳をもとに同事務所が管理する県内の歩道橋26カ所を調べたところ、一条歩道橋を除く25カ所はいずれも手すりの高さが1.1メートル以上あり、さらにこのうち23カ所は1.2メートル以上あった。県が管理する県道などの歩道橋83カ所についても、県の台帳をもとに調べたところ、いずれも1.1メートルから1.2メートル前後あった。
一条歩道橋が建設されたのは昭和46年。奈良国道事務所が管理する歩道橋の多くは40年代に建設された。数は少ないものの手すりの高さが1.1メートルと低めの歩道橋はいずれも42年の建設で、早い時期に集中している。しかし、同じ42年の建設でも香芝市の二上歩道橋の手すりは1.2メートルある。このほかの一条歩道橋より以前の歩道橋の手すりも多くは1.2メートルある。
同事務所の伊勢達男副所長によると、一条歩道橋の手すりがほかに比べ低くなった原因は今となってはよく分からないが、これまでに手すりが低いという指摘や転落事故はなかったという。
一般に転落防止のための手すりの高さは、人の重心の位置などをもとに算出される。身長が高ければ重心も高くなり、手すりを高くする必要がある。
歩道橋の手すりの高さを1メートル以上とした根拠は何か、国交省に対し情報公開制度に基づいて根拠の分かる文書の開示を求めたが、「制定が昭和30年代なので古くて残っていない」との回答だった。手すりの高さを1.1メートル以上とした建築基準法施行令についても同様だった。
一方、「防護柵の設置基準」の根拠となった文書として、同省所管の土木研究センターがまとめた「防護柵の開発に関する研究」(昭和61年)を示してきた。これによると、日本人の成人男性の身長を将来の伸びを考慮して175センチと想定、転落防止のための安全な手すりの高さとして1.1メートルを導き出していた。
奈良国道事務所は一条歩道橋の手すりのかさ上げを検討するに当たって、自転車利用者の安全を考慮したという。同歩道橋には自転車用のスロープが併設されているが、スロープの傾斜が急で橋の路面の幅も狭く、自転車は押して歩くことを前提としている。しかし、実際には乗ったまま通行する人がいる。「立体横断施設の設置基準」は自転車の走行がある場合、手すりの高さを1メートルでなく1.1~1.2メートルとするよう求めていることから、かさ上げにより1.1メートル以上必要と考えたという。
かさ上げは塗装の修繕に合わせて実施する。時期は決まっていないが、「できる限り早く実施したい」としている。伊勢副所長は「取材で指摘を受け、問題をあらためて認識した。利用者に優しい歩道橋が求められる」としている。