奈良市北西部と生駒市北東部が接する地域に近鉄けいはんな線学研奈良登美ケ丘駅がある。駅周辺にはショッピングモールをはじめカーディーラーやホ-ムセンター、大学、高校などが立ち並び、近代的な都市空間が形成されている。さらに現在も大学の北側では開発が行われており、山を切り崩し谷を埋めて平地にする工事が続けられている。
しかし、この場所がわずか10年前まではサンコウチョウやオオルリ、キビタキなど65種類もの野鳥が生息し、絶滅危惧種のオオタカが繁殖する緑豊かな素晴らしい森であったことを知る人は少ないのではないだろうか。
では、そのような素晴らしい環境や絶滅危惧種のオオタカの繁殖地が存在したにもかかわらず工事が行われ、環境保全が全く行われなかったのはなぜだろうか。
当時、事業主体の近畿日本鉄道は、開発計画段階で工事区域周辺の環境調査を行っている。そして、工事が環境に及ぼす影響をまとめた調査報告書の中で、希少猛禽(もうきん)類としてオオタカの存在が記され、その内容は「飛翔が確認された希少猛禽類については今後も調査を継続し専門家の意見を十分聞きながら適切な対応を行っていきます」となっている。
このように調査結果では、希少猛禽類が飛翔し、事業予定地を行動圏の一部として利用していることを認めながら、繁殖に関してはいささかも触れていないことに疑問が残る。なぜなら当時オオタカの巣は3カ所あり、そのうち2カ所は道路からはっきり確認できる場所に位置し、巣作りや抱卵の様子なども観察することができた。したがって、プロの調査員数人が約1年間調査をしたら、松の木に掛かったオオタカの巣を見逃すはずなどあり得ないと思うからだ。
ともかく、こうした調査結果を踏まえ工事は進められていったのだと思うのだが、現在この周辺でオオタカの姿を見ることはなく、オオルリやサンコウチョウの美しい鳴き声を聞くこともなくなってしまった。果たしてこれで環境に対して、どのような対応がとられたというのだろうか。
人間の住みやすい環境だけを優先した、現在の状況には大きな不満がある。現在も奈良県各地で宅地開発などの大規模開発が行われているが、学研奈良登美ケ丘駅周辺のときと同様な環境評価がなされれば大切な自然が失われ、貴重な生き物たちが次々とすみかを追われ消失していくことになるだろう。山を切り崩し谷を埋め、緑を破壊し、生き物たちの暮らしを脅かす行為はできるだけ早くやめてほしいと願うのは、きっと私だけではないと思うのだが。
(よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新
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