山々に新緑がもえる5月下旬、奈良県各地の里山にもさまざまな種類の夏鳥たちが繁殖のために渡来する。その中から里山を代表する野鳥2種類を紹介しよう。
まずは、近畿各地で桜が咲き始める4月上旬 、里山近くの雑木林にやって来て、美しいさえずりを聴かせてくれるオオルリ。北海道から九州までの山地や丘陵地で繁殖する夏鳥で、体長約16センチ。くちばしは黒く、頭部から背面および尾にかけては鮮やかな瑠璃色。ほおからのどにかけては黒色で胸部は白い。美しいさえずりと気品ある姿で人々を魅了し、ウグイス、コマドリとともに日本三鳴鳥の一つに数えられる。
里山を代表するもう一つの野鳥は、タカの仲間 サシバだ。サシバは本州から九州までの山地や丘陵地で繁殖する夏鳥で、体長は約47センチ。頭部は灰色で背面から尾羽にかけては茶褐色。腹部は白に細かい茶色の横班がある。のどの中央に黒い縦の線があるのが特徴だ。また、尾羽には黒帯があり、戦国時代に矢羽根に使用されたことが「差羽」という鳥名の由来とされる。農作業の盛んなこの時期、田植えの終わった田んぼのあぜでカエルやヘビ、トカゲなどを捕獲して子育てを行う。
オオルリとサシバ、いずれの野鳥も生息が確認される地域は、豊かな自然が残る里山といえるのではないだろうか。しかし近年、越冬地である東南アジアにおいて森林の伐採が進み環境が悪化していることから、サシバの渡来数が激減している。同様に繁殖地であるわが国でも、後継者不足から農業が衰退し、放棄水田が増えている。自然豊かな里山は生き物の宝庫であり、私たち人間にとっても大切な場所である。生物多様性が叫ばれる今日、森林を含め里山の保全に早急に取り組まなければ、地球温暖化にますます拍車がかかるのではないだろうか。
(よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新
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