山々にホトトギスの声がこだまする5月初旬、夏鳥としてはやや遅く日本に渡来するタカの仲間ハチクマ。奈良県でも5月中旬には各地で山あいを飛翔するハチクマの姿が観察される。
ハチクマは北海道から本州の森林で繁殖する。餌はヘビやトカゲなどを捕らえる一方、クロスズメバチなど地バチの巣を掘り起こし、その幼虫を好んで食べ、子育てでは主にこれを与えることから、「ハチを食べるクマタカに似たタカ」が名前の由来とされている。
体長は約60センチ。翼を広げると130センチもある大型の猛禽(もうきん)である。同じ種であるにも関わらず、さまざまな色彩の個体がいるのが特徴で、色彩を大別すると淡色型、褐色型、暗色型の3種類に分けられる。
淡色型成鳥雄の頭部は灰色で背面から尾羽にかけては灰褐色。雌の成鳥は頭部が茶色で背面は茶褐色である。腹部は淡い白で細かい茶褐色の横じまがあるが、あまり目立たない。
褐色型は頭部から背面にかけ茶褐色。腹部は淡い茶色である。また、暗色型の雄は頭部が灰色で全身黒に近い濃い茶色である。
それぞれ色彩の違いはあるが成鳥の雄は尾羽に太い2本の黒帯が目立つ。これに対し成鳥の雌や幼鳥の尾羽には3~6本の細かい黒色の細いしまがある。また、これ以外にもさまざまな色彩のハチクマが存在する。
秋の渡りの季節には奈良県南部の十津川村や東吉野村の上空、北部の生駒山上空をサシバと共に群れになって通過する姿がたびたび観察される。渡りのルートは、サシバが九州を南下、奄美大島、沖縄を経由して東南アジアの国々で越冬するのに対し、ハチクマは九州北部を通過して中国南東部に入り、香港付近を経由して東南アジアで越冬するのではないかと考えられているが、正確には解明されていない。
ハチクマは奈良県では10年前まで、夏場に飛翔が確認されるものの繁殖は確認されていない種であった。しかし、ここ2、3年、生駒市北部や三郷町周辺などで繁殖が確認されており、県内各地でも観察されることが多くなった。里山の猛禽サシバが激減しているのに対し、ハチクマが多く観察される事態は、越冬地東南アジアの環境や渡りのルートの地域および日本の森林、里山などの環境に微妙な変化を来し、生態系に何らかの異変が起きていることを示しているのではないだろうか。
今後も、地球全体の環境にも変化がないか実態を把握し、生き物たちの状況を見守っていかなければならないのではないだろうか。
(よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新
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