県内の自治体で、利用見込みのない土地を大量に抱えた土地開発公社を解散し、その借入金を返済するため、地方財政法の特例的な借金となる第三セクター等改革推進債を発行するところは少なくとも7市町あり、発行額の総計は約370億円に上る。しかし、このうち土地開発公社の情報公開を義務として実施してきた自治体は3市町にとどまることが、「奈良の声」の調査で分かった。全国的に見ても本県市町村の財政規模に対する発行額は大きく、財政を揺さぶるが、不透明な土地買収など住民への説明責任は果たされていない。解散すればそれで終わりではなく、新たな借金をする今こそ、公開制度を拡充し、問題の共有化を進めることが求められそうだ。
3市町は天理市、香芝市、上牧町。うち天理市の情報公開条例は何人も開示請求できるよう改正され、土地開発公社の情報については公開条例に準じて対応することを義務化している。また、上牧町は、公開条例の実施機関に土地開発公社を加える改正をし、透明度が増した。香芝市は、公社の保有情報が公開条例の規定にのっとり開示されるよう、必要な措置を講じることを義務化した。
上牧町は20年以上前の町政から引き継いだ土地などがいわゆる塩漬け状態で、約43億円の三セク債発行を予定。町の財政は今後、25年間の償還に苦しむことになる。2009年に土地開発公社を実施機関に加えた改正・情報公開条例を施行し、不開示情報に対する取り消し訴訟(行政訴訟)への道が開けた。公社の実施機関化は、町レベルでは全国的に珍しく、都道府県レベルでも3割程度とされる。
天理市は約22億円の三セク債を予定し、県内では唯一、法令が基本とする10年で償還する計画。財政担当者は「返済が長期化すればするほど金利の負担が重くなる。土地開発公社は存在意義が失われた」と話す。
一方、三セク債の発行を予定している県内の他の団体は、情報公開条例の努力義務などで公社の情報公開に対応している。発行額が175億円と全国の中核市で最大級になる奈良市も同様の規定だが、今年6月の市議会の委員会で保有地の詳細な情報を公表した。過去の市政がもたらした利用見込みのない土地の取得で不明な点がかなり残されているうえ、償還は20年に及ぶ。
53億円程度の三セク債発行を見込む大和郡山市は、土地開発公社の要綱(内部規定)で情報公開を実施しており、市が出資した外郭団体の公開に関する条例の規定づくりが課題といえる。必要のない土地取得を10年以上前に調査したことがある元市議は、開示情報が乏しく限界を感じたという。
三セク債は国や県が許可し、手続きの期限は2013年度に迫るが、大和高田市や桜井市も発行を検討している。大和高田は県内でも行政文書の公開度が高く、土地開発公社に対しても公開を義務づけ、何人も開示請求ができる。桜井の公社情報の公開規定は市の要綱にとどまっている。
塩漬け土地問題は、過去の首長の施策にさかのぼるケースが多く、問題が先送りされてきた。経済的な要因による開発の停滞だけが背景とは決していえない。県内では近年、土地開発公社を舞台にした背任事件が生駒市、高取町で起き、前市長(故人)、元市会議長、前町長らが摘発された。
外郭団体の負債は住民の目に付きにくく、議会の議決を必要としない仕組みは、公有地をいたずらに拡大させ、高値の取引を誘発した。公社の負債は、北海道夕張市の破綻を契機とした財政健全化法の施行により、法定の財政指標に算入されているが、情報公開の姿勢は自治体間で大きな落差がある。公社の情報は解散後、設立した自治体が保有する。