地域の身近な問題を掘り下げて取材しています
拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一
ダムですみか追われる鳥も
水力発電に再び関心 ―14―
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2012年9月24日
↑布目ダム上空を淡水魚をつかんで飛翔するミサゴ=2011年12月、山添村
↑天理ダムの湖面を浮遊するカワウ=2011年1月、天理市
↑湖岸から望む初瀬ダム=2012年9月22日、桜井市
 2年前に起きた東日本大震災によって、大きく見直されようとしているエネルギー問題。原子力に頼らない社会を目指し、さまざまな自然エネルギーへの転換が求められている。中でも、かつて電力エネルギーの主流であった、水力発電による供給が再び叫ばれるようになってきた。そのため、多くの自治体が凍結していたダム事業の再開を検討している。
 しかし、ダム開発は事業規模が大きく、ダム本体だけでなく、取り付け用の道路なども建設される。広範囲にわたって森を伐採するため、環境に与える影響が大きいとされている。そこでダムができた後、生態系はどのように変化するのか野鳥を例に考えてみよう。
 通常、ダムは山間の上流に建設される。従って、そこに存在する集落や里山、渓流などの全てがダムの湖底に沈むことになる。そしてダムが完成すると、そこに巨大なため池「ダム湖」が出現する。里山で木の実や田んぼ、畑などにいる昆虫を餌にして暮らしていたモズやムクドリ、ツグミなどをはじめ、渓流に生息するカワガラスやヤマセミ、セキレイの仲間などもすみかを追われることになってしまう。
 代わってダム湖には多くの水鳥たちがやって来る。オシドリやカルガモ、マガモなどカモの仲間が集まってくるほか、アオサギやダイサギ、カワウ、カイツブリなども生息するようになる。またダムにいる魚を狙ってタカの仲間ミサゴなども時折やって来る。
 大きな環境の変化に姿を消す野鳥たちは多いものの、環境の変化に対応し、そこに住み続ける野鳥たちもいる。ヤマセミは渓流からダムの放水路近くへ餌さ場を変え、何とか生き延びる個体がいる。またカワガラスの中にも、ダム周辺にある人工物などの穴に営巣して、子育てを行う個体がいる。
 このようにダムができることによって野鳥たちの種類は増えるが、環境の変化に対応できない里山の野鳥たちはいなくなってしまう。
 今後日本の電力は原子力発電から水力発電をはじめ風力発電、地熱発電などの自然エネルギーなどへと転換されることになると考えられる。このような施設が建設される場合には、事前に建設場所周辺の環境を十分に調査し、工事が環境にどのように影響を与えるのか、またダム完成後、生息する生き物たちがどのように変わったのか評価して対応に当たらなければならないだろう。そうでなければ、生物分布に大きな変化をもたらし、いずれ地球環境全体に悪影響を与えかねないからだ。
 (よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新

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