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近代和風の奈良市旧都跡村役場 存続危機公民館、市連絡所に使用 老朽化で自治会が建て替え要望
近代和風建築として貴重とされる奈良市四条大路5丁目の旧都跡村役場が存続の危機にある。建物は2棟あり、現在、庁舎が都跡公民館分館として、議事堂が市都跡連絡所として使われているが、老朽化が著しく、地元の都跡地区自治連合会が地域ふれあい会館への建て替えを要望しているためだ。 生駒郡都跡村は1889(明治22)年の市町村制施行で誕生。1940(昭和15)年、奈良市に編入された。建物は1933(昭和8)年に建てられ、築79年になる。 近代和風建築は、明治維新から太平洋戦争終了までに建てられた和風建築物。文化庁は全国で近代和風建築の調査を実施しており、本県でも県教育委員会が2011年3月に調査報告書「奈良県の近代和風建築」を発行した。調査では、近代的背景を基に成立▽建築的に質が高い▽近世建築に見られない特徴を持つ▽近代的特徴を顕著に示す▽地域的特色を示す―の基準にかなうものとして91件を選出。旧都跡村役場はこのうちの1件で、「最小規模の庁舎と議事堂が、ほぼ当初のままセットで残っている点で、貴重な存在」とされた。 報告書などによると、庁舎、議事堂ともに木造平屋建てだが、意匠は少し異なる。庁舎は入り母屋造りの桟瓦ぶきで広さ約216平方メートル。議事堂は寄せ棟造りの桟瓦ぶきで、広さ約130平方メートル。庁舎のみ、柱の上に舟肘木の飾りがある。窓はいずれも縦長のものが並び、壁には下見板を張っている。現在、窓や玄関引き戸はアルミサッシに変わり、室内の間取りも変わっているとみられるが、構造体や造作は残したまま改造されているという。議事堂には当初の天井も残っている。 連絡所は職員3人が常駐、市民への通知、自治会などとの連絡、市税・国民健康保険・市民課業務などの本庁との取り次ぎを行っている。公民館分館は指定管理者制度を導入しており、指定管理者は都跡地区自治連合会。地元のまちづくり活動や太極拳などの教室に利用されている。 市地域活動推進課によると、老朽化に伴う最大の問題は耐震性が乏しいこと。このほか、屋根瓦のずれや雨漏りがあり、床が抜けている所もある。随時、改修をしているが、根本的な解決には高額の費用を要するという。 地域ふれあい会館への建て替えは2011年11月、市の地域要望を聞く会で、同自治連合会が仲川元庸市長に訴えた。これを受け、同課は2012年度予算で設計費などを要求したが、市の厳しい財政事情などもあり計上されなかった。このため、同自治連合会はことし3月、市議会に請願書を提出。「市の職員が勤務し、住民が多く訪れる施設であり、大きな地震が起きた場合の安全性が心配」とし、会館の早期建設を求めた。請願は市民環境委員会に付託され、継続審査になっている。 同課によると、市の地域ふれあい会館は使用に当たって法律的な拘束がなく、飲食のほか葬式なども可能。住民にとって使い勝手が良いという。社会教育法に基づく公民館は飲食ができない。会館は市内の小学校区ごとに建設が進められてきたが、48校区中あるのは14校区にとどまっており、ない校区の方が多い。 要望への市の対応は、仲川市長が3月の定例市議会で、「地域の実情や地元住民の声を聞きながら検討していく」「改修や建て替えも視野に入れながら、関係各課と調整を図っていきたい」と答弁、結論に至っていない。市地域活動推進課は、都跡地区の小学校や中学校、少子化による幼稚園の空き教室など他の公共施設の利用も考えられるとしている。文化財保存の立場では、市教育委員会文化財課は「県教委の報告書に取り上げられていることは認識しているが、それ以上は白紙の状態」とした。 同自治連合会に対し、保存についてどう考えるか取材した。藤田正博会長は「建て替えするかどうかも決まっていないので、保存するとかしないとか連合会で話はしていない」とした。 地元の一般市民は建て替え一辺倒でもない。保存にも関心を残している。同市尼辻中町の農業富田輝夫さん(65)は「建て替えの要望が出ていることも文化財的価値についても知らなかった。建て替えのニーズはどれだけあるのか。壊すのはもったいない。保存は大事かなと思う。一方で、いずれ建て替えなければならないなら、安全性を考えて早い方が良い。保存、建て替えのどちらにも長所、短所がある」とした。連絡所に来ていた男性(70)は「耐震性や雨漏りの問題があり、建て替えは仕方がない。ただ、お金があるなら修理してこのまま残してほしい」と話した。 |
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