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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

〈視点〉公文書の「不存在」を考える

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2012年11月16日 浅野詠子
復元された楽人長屋の塀に関して記者が奈良市に提出した行政文書開示請求書(一部を修正しています)

 道路の新設で消えてしまった奈良市内の風情に、楽人長屋の建物がある。昔、雅楽の奏者が住んでいた所で、独特な形をした塀は名勝・大乗院庭園文化館(同市高畑町)で復元されている。これに「実物より大きすぎる」という市民の指摘があり、本年、取材して報じた

 塀は奈良市が1996年に復元した。取材を開始するにあたり、関係する文書が保存されていないか、市の情報公開条例に基づいて開示請求した。市は当初、文書を「不存在」とした。ところが、実際には庁内に保存されていたことがこのほど分かった。

 行政の文書管理について考えてみた。

 請求用紙に書いた主な内容は次の通り。「大乗院文化庭園において、復元された楽人長屋について、市の助成金、市の指導および完成後の指導など、楽人長屋に関する文書をすべて請求いたします」。ここで、市の助成金や指導と書いたのは、念のため市の工事でなかった場合を想定したからだ。また、すでに「実物より大きすぎる」などの指摘が市にあったと仮定し、是正指導が行われている可能性も念頭に置いた。

 請求の結果、担当の文化振興課は「何も記録がない」と回答した。さらに「保存年限が過ぎている」と言われ、開示請求を取り下げた。しかし、塀も他の建物と同様、存在する間は永年保存だった。同課は当時、これを認識していなかった。また、教育委員会の文化財課には取り壊される前の楽人長屋の実測図面と写真が残されていた。

 ひとたび文書不存在の通知を受けると市民はなすすべがない。記者は以前、雇用助成金の流用問題を取材中、「文書不存在」と県の商工課から通告されていた行政文書が、実は隣室の中小企業課にあったという経験をしている。また、水俣病関連の国の文書がやはり「文書不存在」とされたとき、開示請求をした人が異議申し立てをし、書庫に眠っていた当該文書を職員が見つけ出したということもある。

 片山善博元総務相が鳥取県の知事時代、安易な「文書不存在」の決定を職員に戒め、不存在の行政処分を検討している現場に自ら立ち会ったとも聞く。このたびの一件で、公文書の公開を担当する奈良市文書法制課が文化振興課に照会したところ、「もしかしたら文化財課に何か残っているかもしれない」と請求者に伝えたという。記者には記憶がないが、水掛け論はやめておく。

 さて、楽人長屋の話なら、街ネタ取材の小さな顛末(てんまつ)として終わるかもしれないが、同じ公文書でも、公害や軍事などに関連してくると、あるのに「ない」では済まされない。このため、どのような文書であれ、不存在の通知を受けた場合は、市民の側も安易に請求を取り下げず、正規の行政処分として「文書不存在」の通知を受け、念のため、権利として異議申し立てをして、再度、書庫などから探してもらうことが肝要かもしれない。

 奈良市の情報公開制度は進歩し、開示範囲もぐんと広がっている。一方、文書法制課の話では、公文書の目録などに記載がなくても、書庫などに保存されているケースもあるという。文書の管理は、市民共有の知的資源を守ることであり、財政健全化の途上にあっても後退してはいけない分野だ。

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