奈良県各地で今も進む宅地開発。丘陵地の山林は伐採され、田んぼや畑などのある谷は土砂によって埋められ、次々と分譲地が出来上がっている。しかし、経済状況が悪化している昨今、宅地が整備されたからといって、販売された土地にすぐに住宅が建設されることはないようだ。従って、長期間買い手のつかない分譲地は雑草や芝生などに覆われ、荒れ地になってくる。
こうした荒れ地のセイタカアワダチソウやマツヨイグサ、ヌルデなどの雑草には、それらの種子を求めて冬場にはマヒワやアトリなど多くの野鳥たちが集まってくる。また、分譲地の中には遊具などが備えられた児童公園もあり、地面の芝生などにはさまざまな昆虫が潜んでいる。そのため、主に昆虫を餌とする野鳥のモズやツグミ、ジョウビタキなどがやって来る。まれにトラツグミが観察される場合もある。
ツグミは全国各地の平地や山林、市街地の公園などに飛来する冬鳥で、体長は約25センチ。くちばしは黒く、頭部から背面にかけては赤褐色でのどは白い。胸から腹にかけては白色だが黒い斑点が無数にある。目の上の部分に黄白色の大きな眉斑があるのと、ほおの部分が濃い茶色であるのが特徴だ。
一方、ジョウビタキは全国各地に飛来する冬鳥で、主に里山の雑木林や田畑の近くで見られるが、市街地の公園や庭先などにもやって来る。体長は約15センチ。スズメよりやや大きな鳥だ。雄の頭部は灰色で背面は黒色。腰から尾羽にかけてと胸から腹部は鮮やかなオレンジ色。顔面と翼は黒く、翼の一部に白く大きめの斑点がある。人をあまり恐れず、身近で観察できる野鳥の一つだろう。
このように多くの野鳥が集まり、一見野鳥の楽園にも思える買い手のつかない分譲地だが、いずれは多くの家が建設され住宅地として生まれ変わるだろう。少子化の時代、将来人口が急激に増加するとも思えないなかで急速に進む宅地開発。生物多様性を考え生き物たちとの共存を図り、野鳥たちの楽園が一時的なものでないような状態を構築していかなければならないと思うのだが。そうでなければ今後、緑地減少によって光化学スモッグやヒートアイランドなどの現象が起こり、私たち人間の生活が脅かされることになるのではないだろうか。
(よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新
与名さんの写真集を正価より安くお求めいただけます
◇奈良高山の自然 茶せんの里の生きものたち(東方出版)
◇森のハヤブサ ナニワの空に舞う(東方出版)
→ご案内はこちら