奈良市の近鉄奈良駅前行基広場で28日、ガラスの大屋根を設置する奈良県の工事が始まった。県は本年度中の完成を目指す。屋根は、奈良の玄関口広場の雨を防ぎ、観光客らの利便性向上を図る狙いだが、設置に反対してきた市民らは、遮るもののない広場から見上げる空こそ観光客へのもてなしになる、などと訴えていた。工事期間中、広場は閉鎖される。
県の計画によると、大屋根は鉄骨造り、高さ11メートルで、広さ約560平方メートルの広場のほぼ全体を覆う。先月17日、設置工事の一般競争入札の開札が行われ、中村建設・大倭殖産特定建設工事共同企業体が約1億7310万円で落札した。事業全体では、ほかに現場の工事監理業務委託の約257万円、広場地下の関西電力管理の管路移設補償の約660万円、基本設計・実施設計の約1081万円があり、費用は合わせると約1億9308万円になる。
県の大屋根計画が明らかになったのは2010年7月。市民らが計画を知る機会のないまま、県が実施設計の入札を行おうとしたことに反発が起きた。県はいったん入札を中止し、パブリックコメント、アンケート、識者や地元関係者からの意見聴取を実施。この結果からおおむね賛成を得られたとし、あらためて計画を進めてきた。
行基広場ができたのは1970年。市街地を車と併走していた奈良線と奈良駅舎が地下化されたことに伴い、地上に駅ビルが建設され、これに付随して設けられた。当初の駅ビル計画に駅前広場はなく、地下鉄のように駅を出ると道路という構造になる予定だったが、当時の鍵田忠三郎・奈良市長が反対、計画を変更させた。地下駅を出たらまず青空を望める広場で古都の風情を、との心配りからだった。敷地は近鉄の所有だが、市が駅前広場として管理、行基像の噴水も設置した。