落ち葉が風に舞い、木枯らしが吹く12月初旬。北国から多くの野鳥たちが越冬のため全国各地にやって来る。そして野鳥たちは、池や沼、雑木林など、それぞれの環境に適した場所で冬を過ごす。
ところで、奈良市民の身近にある奈良公園にも秋から冬にかけ多くの野鳥たちが集まってくることをご存じだろうか。
奈良公園は東大寺や春日大社、正倉院などの歴史的建造物も多く、全国から観光客が訪れ一年を通してにぎわっている。しかし、晩秋から初冬にかけて人びとは東大寺や春日大社周辺付近だけに集中し、奈良公園の芝生広場や小川に沿った散策道などでは人けがまばらになってくる。
すると、その時期を待っていたかのように公園のさまざまな場所で野鳥が観察されるようになる。中でも木の実や種子を餌とする野鳥が多く、イカルやシメ、ツグミ、ムクドリなどをはじめアトリ、ビンズイ、マヒワ、ニュウナイスズメなどが見られる。
アトリは日本各地に飛来する冬鳥で、山地の森林や低地の雑木林、市街地の公園などで群れになって生活し、単独で見られることはまれな野鳥である。体長は約16センチ。冬羽の頭部は灰色で個体によって目の周辺に黒色の部分がある。背面は黒とオレンジ色。翼に白い縁取りがあり、のどから腹部にかけては鮮やかなオレンジ色で実にカラフルな野鳥だ。
またニュウナイスズメは主に北海道で繁殖する野鳥だが、本州では中部以北で局地的に繁殖している。それ以外の地域では冬場に観察されるが、冬場の生息地も局地的である。体長は約14センチ。スズメに似た色彩だがほおに黒い部分はなく、雄の頭部から背面はスズメよりも鮮やかな茶色で、とても美しい鳥だ。
多くの野鳥たちは水場を求めてやって来るため、公園内にある小川や水たまりなどに集まってくる。スギやイチョウ、カエデなどの樹木も多く、池や芝生などのさまざまな環境が混在し、豊かな自然を形成する奈良公園。今後、都市開発などで公園の緑地が減少することのないように注意しながら、私たちは状況を見守っていかなければならないだろう。そうすることが、野鳥たちや多くの生き物たちのためであり、私たち人間の未来のためであると私は考えるからだ。
(よな・しょうぞう=野鳥写真家、生駒市在住)=毎月第2、4月曜に更新
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