奈良県の近代化遺産800件、わが町にも 県教委が調査報告書
奈良県教育委員会は、本県の近代化を伝える建築物や構造物の残存状況や保存状態を調査し、「奈良県の近代化遺産」(A4判、182ページ)として、このほど刊行した。県全域で800件が報告されており、県民はわが町の身近な近代化遺産を知ることができそうだ。
県全域の近代化遺産に関する調査報告書は初めて。形態や意匠が優れたもの、歴史的に重要なものについて、保護措置を図っていくための基礎資料作成を目的とした。文化庁が進める近代化遺産総合調査に関する国庫補助事業として、2011~13年度の3年間で実施した。調査は、学識経験者から成る調査委員会(委員長、林良彦・奈良文化財研究所文化遺産部長、6人)と県内各市町村の調査員に委託した。
対象は、幕末から第2次世界大戦の終わりにかけ建造された建築物や構造物で、建築、産業、交通、土木に分類した。1次調査で約800件を把握し、このうち特に重要と考えられる78件について2次調査を実施した。
報告書は、2次調査の78件についてそれぞれ解説を載せた。建築では、れんが造りの奈良少年刑務所(奈良市、1908年)をはじめ、奈良ホテル本館(同、1909年)、天理大学付属天理図書館(天理市、1930年)、日本聖公会八木基督教会(橿原市、1936年)など。産業・交通・土木では、日本で最初のケーブルカーという近畿日本鉄道生駒鋼索線(生駒市、1918年~)や宮本延寿堂製薬工場(高取町、大正期)や五月橋(山添村、1928年)、宇治川電気樫尾・吉野発電所(吉野町、1922、23年)などを取り上げている。
また、1次調査の800件は一覧表にした。橋や道路、鉄道関連施設、住宅、工場、事務所、銀行、郵便局、医院、小学校など、身近に一つや二つはありそうな近代化遺産が市町村別にまとめられている。
このほか、古都奈良への観光や吉野林業が鉄道や道路などの整備を促進させたことや、橿原市を中心に実施された1940年の紀元二千六百年奉祝事業が残したインフラ面の成果についても、本県の近代化の特徴として論じている。
報告書は課題にも触れており、本県について「古代、中世の遺産が数多く存在する半面、近世・近代の歴史・文化に関わるものについて、価値認識が極めて希薄であることが、他府県との大きな差異となっている」と指摘。また、こうした既存の価値観に対する近代化遺産の位置付けに関連して、「年月とともに加えられる文化遺産の維持を都市化とどう両立させるかは、関西大都市圏に置かれた古都奈良の立ち向かうべき課題として今後も議論されていくべきであろう」とした。
報告書は450部製作された。奈良市の県立図書情報館や県内市町村立図書館で閲覧できる。