奈良県)奈良市、旧都跡村役場の棟札調査へ 取り壊しで市民要望受け
惜しまれながら来月、取り壊される奈良市四条大路5丁目の近代和風建築、旧都跡村役場(市有財産)について、市は25日、当初は予定にないとしていた棟札の調査を市教育委員会文化財課と連携して実施することを明らかにした。
市は、建物の部材は取り壊しにより産業廃棄物になるとし、設計者が判明する可能性のある棟札の調査に配慮した解体工事は行わないとしていた。しかし、旧役場の設計者が、生駒市山崎町の登録有形文化財、旧生駒町役場(市生駒ふるさとミュージアム)と同じ中川吉治郎である可能性があることを建築家が指摘し、市民から棟札調査をするよう要望が出ていた。
文化財課によると、2010年度に県教育委員会が実施した近代和風建築総合調査では、旧都跡村役場の屋根裏などは調べておらず、棟札は見つかっていない。設計者の名前などを刻んだ札が屋根裏の棟木などに打ち付けられている可能性があり、解体工事に同課職員が立ち会う方向という。
旧都跡村役場は1933(昭和8)年の木造平屋建て・瓦ぶきの建物。県教委は同調査の報告書「奈良県の近代和風建築」で「最小規模の庁舎と議事堂が、ほぼ当初のままセットで残っている点で貴重」と評価していた。
今回の取り壊し工事で市は、旧庁舎と旧議事堂のそれぞれの鬼瓦を1カ所程度ずつ保存する方針。さらに懸魚(げぎょ)と呼ばれる屋根の装飾材も残したいとしている。また、詳細な写真撮影をすでに済ませている。同課の建築文化財の担当者は「もし棟札が出てきたら、新築の集会施設の中で展示、保存することも検討されるだろう」と話している。
◇視点 全国の中核市の中で奈良市は、財政が最も悪化した団体の一つである。その背景には、過去の市政の時代に必要性が十分に検討されないまま取得された土地の累増や過剰な箱ものの建設による、巨額の借金の影響があるとみられる。
旧都跡村役場の取り壊しは、地元自治会が前市政時代に要望した集会施設の新築に伴う。どこまで地域住民に文化財としての価値の告知がなされたか、合意形成は十分だったのかという懸念を払拭(ふっしょく)しきれない。まちづくり団体や建築家の団体から旧役場の保存要望が出たが、市は立ち止まらなかった。
文化財的な価値や観光振興の資源としての可能性を検討することなく、保存するより新築の方が費用を抑えられるとする、表面的なコスト計算によって、取り壊しを優先させたとみられる。