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発行者/奈良県大和郡山市・浅野善一

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浅野善一

廃棄物排出業者の組合への補助金違法 奈良県安堵町長に賠償責任 住民訴訟で地裁 処理の事実確認できず

安堵町役場=2024年3月4日、同町東安堵

安堵町役場=2024年3月4日、同町東安堵

 奈良県安堵町の地域産業の事業者が排出物の収集・運搬を専門業者に委託するため設立した町同和地区産業廃棄物処理組合に対し町が交付した処理費用の補助金を巡る住民訴訟で、町長が賠償責任を問われた。実際には廃棄物の排出・処理の事実がないのに補助金を支出して町に損害を与えたという。

 問題とされたのは2020年度の補助金216万7200円で、町民が町を相手取り、西本安博町長に損害賠償請求するよう求めて奈良地裁に提訴。寺本佳子裁判長は今年1月9日の判決で同補助金支出を違法とし、町に対し、町長個人への賠償請求を命じた。町は判決を受け入れ、町長は2月29日付で遅延損害金を加えた230万5425円を町に支払った。

 裁判を機に、組合のこの数年の活動実態の有無や、誰が問題の補助金の交付を申請し、交付された補助金がどのように使われたのかなどの疑問が浮上している。

 提訴したのは同町の自営業池田忠春さん。池田さんによると、2020~21年ごろ、すでに靴工場を閉鎖していた組合長の名義で補助金が交付されていることを知り、疑問を持ったという。池田さんは2021年9月、町監査委員に対し住民監査請求を行い、請求が棄却されたことを受け、同年12月、地裁に提訴した。

 判決などによると、補助金制度の創設は1989年。前年ごろ、町のごみ処理施設が閉鎖され、同施設に産業廃棄物を搬入していた町内の事業者は廃棄物の処理に経費を要することになった。1991年に操業を開始した町環境美化センターは産業廃棄物を受け入れておらず、最終処分場への運搬を専門業者に委託する必要があった。町はこれら事業者の救済を目的に産業廃棄物排出業者補助金交付要綱を定め、経費の一部を補助することにした。

 一方、同和地区産業廃棄物処理組合は補助金の受給主体として設立された。組合は、組合員が排出した廃棄物の収集・運搬を専門業者に委託する役割を担った。町が池田さんに開示した交付申請書に添付されていた組合員名簿は氏名が不開示だったが、氏名欄には14人分の氏名があり、それぞれが排出する廃棄物の種別の欄には合成皮革、かしわ、皮・合成皮革、ゴム、生花、食品、麻袋他の記載があった。

 2020年度の補助金のうち訴訟の対象となったのは、訴訟の前提となっている住民監査請求で問うことが可能な監査請求から過去1年以内の分。補助金は月額27万900円で、該当したのは同年4月分から2021年3月分までの合計325万800円のうち、8月分から3月分までの216万7200円だった。

 裁判で明らかになったのは、組合からの交付申請が要綱に違反していたにもかかわらず、町が補助金を交付していたこと。要綱では、交付申請は毎月または3カ月か6カ月ごとに、委託業者に支払った代金の領収書か請求書を添えて行うことになっている。

 しかし、組合が年度当初の2020年4月1日付で町に提出した申請書は、上限の6カ月を超える、まだ実施されていない同年4月から2021年3月までの処理に対する補助金325万800円の交付を求めるもので、領収書や請求書も添付されていなかった。それにもかかわらず町は同額の交付を決定し、毎月、組合からの請求を受けて月額分27万900円を支払った。

 町側はこれについて次のように主張した。町が求めれば(いつでも)組合から領収書やマニフェスト(排出事業者が廃棄物の処理を委託する際に処理業者に交付する帳票)が提出され、(結果として)補助金の交付決定がされたはず。町側はその証拠として、委託先とされる天理市内の廃棄物収集・運搬業者から提供を受けた毎月の領収書の控えとマニフェストを裁判所に提出した。

 これに対し判決は、領収書には入金先の同組合名、金額、入金日が記載されているのみで廃棄物の種別は確認できないとした。マニフェストについても、訴訟の対象期間以外の2019年度と2020年4月から7月までの分である上、様式が建設系廃棄物のもので組合の排出物とは認めがたい「廃プラスチック類」などの廃棄物が記載されていて、組合による排出・処理の事実は確認できないとした。

 その上で判決は、組合が事業活動に伴って産業廃棄物を排出・処理したかについて、担当課が調査、確認せず漫然と補助金を支出したことは違法とし、指揮監督の義務を負う町長に過失が認められるとした。

 原告、被告双方とも控訴しなかったため、1月30日付で判決が確定。町住民生活部長は「奈良の声」の取材に対し、2月16日付で町から町長に文書で賠償を請求し、町長から支払いがあったことを明らかにした。

 同部長は判決について「裁判所の判断を厳粛に受け止めている」とした上で「交付要綱にある通りのことができていなかった。組合員から廃棄物が排出されていなかったので、(裁判では)組合が廃棄物を排出していたことを町として根拠付けできなかった」と述べた。

 一方、問題の解明については「調べてはいるが警察ではないので限界がある」とした。同部長によると、組合長名義の補助金交付申請書を誰が作成したのかや、町の補助金交付の担当者が申請書を誰から受け取ったのかが今も判然としない。

 また、組合の活動実態については2021年度以降、補助金の交付申請はないといい、「実態はなくなっていると受け止めている。補助金制度は役割を終えた。交付要綱は廃止すべきと考えている」と述べた。訴訟に臨むに当たって組合から直接事情を聴いたかどうかについては「していない」とした。

 池田さんが2021年4月に組合長から受け取ったという手紙によると、組合長は2017年度以降、靴製造の廃棄物を排出しておらず、組合長の職務も行っていないとし、町に対し補助金も申請していないという。手紙は証拠として裁判所にも提出された。

県からも補助金 「実態なければ町に返還求める」

 町が組合に交付した2020年度の補助金325万800円には、県から安堵町に交付された補助金36万円も含まれていた。池田さんが県から開示を受けた文書によると、町は県産業廃棄物処理事業補助金交付要綱に基づき、2020年4月1日付で交付を申請していた。前年度も同額の交付を受けている。

 県廃棄物対策課は3月11日、「奈良の声」の取材に対し「判決について町から報告はない。近日中に聞き取りを行う予定」とし、交付した補助金については「廃棄物の排出・処理の実態がないと確認できれば、交付要綱に基づいて返還を求めることになる」と述べた。2021年度以降、安堵町から交付申請はないという。 関連記事へ

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