成約まだ、奈良町の町家バンク1年 登録物件少なさ課題 人気裏目、家賃折り合わず

2012年9月25日 浅野善一
「ならまちの格子の家」に掲示された町家バンクの案内ポスター=2012年9月25日、奈良市元興寺町

 歴史的町並みが残る奈良町の町家を取り壊しから守ろうと、空き家所有者と入居希望者を引き合わせる奈良市の「ならまち町家バンク」の運用が始まって1年になるが、これまでのところ成約に至った物件はない。思ったように物件の登録がない上、奈良町人気が裏目に出て家賃が折り合わないことなどがあるという。

 バンクの運営は、市総合財団などでつくる委員会に委託している。対象となる町家は、市が町並み保全のため奈良町都市景観形成地区に指定している地域や、県庁北側の奈良北町と呼ばれる地域にある1945(昭和20)年以前の木造建物。

 制度では、町家の賃貸や売却を希望する人にバンクに登録してもらい物件情報をホームページなどで公開。一方、賃借や購入を希望する人にもバンクに登録してもらい、両者を引き合わせる。市広報紙「ならしみんだより」やポスターで登録者を募ってきた。

 財団によると、9月14日現在の登録数は物件が7件(いずれも賃貸)、入居希望者が32人。入居希望者は半数以上が商売を希望。在住地は県内・外が半々で、最近は県外が増えているという。入居希望者は増える一方だが、物件がなかなか出てこない状況という。

 本年1月、入居希望者による登録物件の見学会が行われた。当時の物件数は3件。賃貸物件と売却物件があったが、いずれも交渉は不調に終わった。賃貸物件は、家賃について双方の思いに開きがあったことなどが理由。売却物件は、所有者側が売るのは得策でないと最終的に心変わりをしてしまったという。

 担当の市観光振興課は、8月21日に開かれた市議会観光文教水道委員会でバンクの成果を問われ、物件の登録が極端に少ない▽バンクについての広報不足▽所有者と入居希望者の間に条件の開きがある―の3点を課題として挙げた。

 財団は、1、2点目については貸すことへの不安、バンクの周知不足があるとして、バンクが安心して活用してもらえる制度であることを知ってもらうため、地域の自治会に出向いて説明したり、回覧板を依頼して空き家情報を提供してもらうなどしたいという。3点目については、所有者側が人気の奈良町という付加価値を反映した最低限の家賃をもらいたいという思いがあるとする。

「信頼関係築くのに時間必要」

 市議会委員会で質問した議員は「当事者間の交渉が負担になっている。サポートが必要では」と指摘した。財団はこの点について「バンクがやるのはお見合いの設定まで。家賃交渉には仲介業の資格がないので踏み込めない。バンクが業者と違うのは持ち主と借り主が話し合ってもらい、信頼関係を築いていくという点。交渉成立までには時間がかかる」と理解を求める。

 また、最終的にどちらかが指定する不動産業者が間に入ることや、財団が不動産業界団体の相談窓口を紹介することもあるという。

 民間の業者はどう見ているのか。賃貸住宅の仲介業を営む奈良市高天町「賃貸のニッセイ」は古家・町家の希望者が多いことに対応して、ホームページに専用コーナーを設けている。

 同社の中野一昭代表(49)は物件が出にくい理由について「町家は老朽化していて、雨漏りの修理など維持にすごく手間が掛かる。貸し主にしてみれば、一度貸したら借家人の権利で返してもらえないのではという不安もある。外から見て町家がいいと思っても、持ち主は古く汚い建物と思っているかもしれない。長屋であれば、息子の代に最後の入居者が出たら、取り壊したいと思っているかもしれない」と分析する。

 また、家賃が折り合わない点については、借りる側にも古家だから安いはずという思い込みがあるとする。

 財団は近く、入居希望者による物件の見学会を予定している。財団ならまち振興事業部門の嶋崎隆則さんは「交渉が何件か成立すれば、私もやってみようという持ち主が増えてくるのではと希望を持っている」と話している。

 奈良町では、築100年の長屋を再生させた宿泊施設ができるなど、町家を生かした事業は盛んだが、一方で最近になって登録有形文化財の町家が取り壊されるなど、共同住宅などに建て替えられる例も後を絶たない。

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