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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

朝堂院舗装「問題なく必要」 文化庁が見解

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2012年11月2日

 奈良市佐紀町の平城宮跡(特別史跡)で、国土交通省が国営公園事業の一環として第一次朝堂院広場の草地を舗装しようとしていることに対し、市民団体が工事中止を求めている問題をめぐり、文化庁は1日、舗装は問題がなく、必要とする矢野和彦・記念物課長名の見解を発表した。

 「平城宮跡及び藤原宮跡等の保存整備に関する検討委員会」の田中哲雄委員長から寄せられた同様の趣旨の見解も公表した。

 1978年の文化庁の平城宮跡整備の基本構想から、それを踏まえた国交省の2008年の公園基本計画に至るまで、住民らがどの程度関与して策定されたものであるか、また合意を得たものであるかについては触れていない。

 舗装は、広場4万5000平方メートルを真砂土にセメントを重量比で4%混ぜてつき固める。これに対し、「平城宮跡を守る会」(寮美千子代表)は緑地の減少や木簡など地中の遺物への影響を懸念、工事中止を訴えて署名活動などを展開している。

 下記に全文。

読者からのご意見>>>

平城宮跡の保護―国家100年の国民的プロジェクト
 文化庁記念物課長 矢野和彦

 平城宮跡は、明治期の棚田嘉十郎や溝辺文四郎といった方々やその遺志を継いだ人々による運動が実り、1922年に「史蹟」となりました。1952年には特別史跡となり、さらに1962年には池田勇人首相により国有化が打ち出され、その後、地元出身の奥野誠亮元文部大臣が、国有化の加速に重要な役割を果たされ、一気にこの壮大な計画が進行しました。

 以来、文化庁は、総額約86億5千万円をかけて約109haを国有化し、整備費や除草を含む維持管理費として年間約3億7千万円を確保しています(藤原宮跡を含む)。

 文化庁直轄の都城跡は、全国でも平城宮跡と藤原宮跡のみであり、平城宮跡の保護はまさに「国家100年の国民的プロジェクト」といえます。換言すれば、平城宮跡は、市民、県民のものであるのはもちろんのこと、国民全体のものでもあるわけです。

 平城宮跡の整備は、1978年の文化庁の「基本構想」等に基づき、遺構展示、朱雀門(1998年)や東院庭園の復元(2000年〉、大極殿の復元(2010年)などが行われてきました。完成した大極殿から朱雀門の方向を眺め、気宇壮大な平城宮跡を既に体感いただいた方も多いのではないかと思います。

 これらの努力により2009年までは、25万人程度だった来場者数も、2011年、2012年(見込み)では、40万人を大きく超える来場者を集めています。

 現在、2008年の閣議決定に基づき、国営公園化が漸次進められ、2008年の文化庁の「推進計画」等に基づき、国交省により第一次朝堂院の整備(約4.5ha)が開始されており、今後、大極殿院の築地廻廊の復元整備などが行われる予定で、さらなる来場者増を図ることとしています。

 文化庁の「基本構想」「推進計画」では、最終形としては、大極殿から朱雀門を結ぶ平城宮跡の中心部分の約1/3ほどが、建物復元及び遺構展示ゾーンとなり、残りの約2/3ほどが緑陰ゾーン、池沼、草園、広場など「緑地」を中心とするゾーンとなっております。

 また、奈良県、奈良市などにより、「天平祭」などの事業が行われ平城宮跡の活用に積極的に取り組んでおられます。

 さて、最近、第一次朝堂院の整備に対して否定的な意見が新聞紙上等でとり上げられていますが、地元で自然保護活動をされている方、周辺の自治会役員の方・市内でNPO活動をしておられる方々からは、「雑草が生え、雨が降ると泥濘になる中庭を整備して、祭りの場にすることが適していると思います。」、「1300年前の平城京の都を復元していくことに賛成する。」、「草生(くさむ)した状況を是とすることは短絡的だと感じます。」という意見も寄せられています。

 第一次朝堂院の整備の否定的なお考えの根拠として「木簡などの地下遺構の保護」や「自然の保護」などが挙げられております。

 今回の整備は、盛り土をしっかりするとともに、透水性のある土系の舗装となっており、地下水位も2カ所で観測することとなっており、地下遺構には問題のない計画となっています。地下遺構の保護はこれからもしっかり文化庁が注視しておりますのでご安心いただきたいと思います。

 また、先述のとおり、平城宮跡の国有地109ha全体では、2/3が「緑地」であり、「緑地」は平城宮跡全体としてはしっかりと保護されております。

 むしろ、文化庁の買収時に水田や住宅地だった用地について、いまだ手つかずのところも少なくありません。例えば、その結果、セイタカアワダチソウなどの雑草地、荒れ地状態の箇所も多く、そのため、不審火、ゴルフなどの危険行為、不法投棄、不法占拠なども横行しています。周辺住民の方々からは、もっとしっかりと管理してほしい、という声も多く寄せられています。

 幸いなことに、大きな事件事故は起きておりませんが、文化庁では、多額の「除草」予算の確保や監視カメラの設置、警備員の増員などに迫られており、地下遺構をしっかり保存しつつ、平城宮跡を整備していくことは、平城宮跡をこれからも半永久的に保護していく上で必要不可欠と考えています。

 文化庁では、世界に誇る国民的な文化遺産として、「遺跡博物館」として位置づけ、「国民各層が古代都城を体験的に理解できる場」としての機能をもつよう段階的に整備を進めることを基本方針としています。このため、復元整備や遺構展示は極めて重要な要素となっております。大極殿が完成し、363万人以上を集めた「1300年祭」が行われた2010年には「不審火」が激減したということもあり「人」が集まる環境を作ることが何より重要でしよう。

 もちろん、市民の憩いの場としても重要な場所であることは言をまたず、緑豊かな空間にすることも重要だと考えています。しかしそれは、不法行為を誘発する「荒れ地」ではなく、きちんと「整備」された「緑地」であるべきと考えています。

 現在の平城宮跡は、いまだ「整備途上」の姿であり、今後とも、多くの市民、県民、国民のご支援・ご支持をいただきながら、国民のみならず、世界の方々にも古代日本の壮大な「国家プロジェクト」を体感いただけるよう整備を進めてまいります。

 まだまだ時間はかかりそうですが、国家プロジェクトとして国有化した平城宮跡の存在意義をしつかりと国内外にお示しすることが、日本を代表する遺跡を全国民からお預かりしている国の責務だと考えております。

平城宮跡第一次朝堂院地区の整備
 平城宮跡及び藤原宮跡等の保存整備に関する検討委員会委員長
 元東北芸術工科大学歴史遺産学科教授 田中哲雄

 平城宮跡の整備は、昭和53年に文化庁が策定した平城宮跡保存整備基本構想で、遺跡を守り、研究し、これを整備して国民的な利用に供する遺跡博物館として保存活用すべき基本方針・敷地利用の原則が決められ、それに基づいて整備が行われている。平成10年に古都奈良の文化財の構成資産の一つとしてユネスコの世界遺産に登録され、平成20年に文化庁が平城宮跡の保存管理と基本構想推進計画を作成し、同年国営公園になり、国交管により整備基本計画が作成され事業が推進されている。いずれも基本構想の、①研究成果に基づき広く国民各層を対象に、古代都城文化を体験的に理解できる場とする。②律令体制下諸遺跡を対象とした発掘調査・関連研究の場とする、③遺跡の保存整備、遺構・遺物の保誰・修復・復原などに関する技術開発とその実践的な応用および技術蓄積の場とするという理念と①国際的な研究交流を積極的に進める場。②奈良盆地北部における「都市―文化財」の一体的保全整備の拠点。③遺跡の整備活用に関する先駆的事業の性格を具備したものという博物館の理念・性格に基づいて行われている。基本構想・計画は有識者及び関係機関の代表者からなる検討委員会にて検討され、基本計画は幅広くパブリックコメントを実施している。

 今回の第一次朝堂院整備は基本理念にもとづく基本計画をもとに計画しているものである。敷地利用の基本構成として、宮跡を構想での研究・収蔵・管理ゾーン・遺構復元展示ゾーン・遺構特殊展示ゾーン・遺構配置表示ゾーン・池沼湿原ゾーン・緑地草園ゾーン・外周緑陰帯ゾーン・南面整備ゾーンを整理して計画では緑地・外周・拠点・シンボルゾーンと区別した、朱雀門から第一次大極殿に至る宮の中心軸と往時の空間を表現するシンボルゾーンに位置づけられてる地域である。

 構想段階から宮跡内の生態・水系・地質・利用実態など各種調査が行われており、水系では宮跡内の台地を形成する3本の谷筋の存在と、台地への降水が谷部を通り南へ排水されることや、地下水位は宮跡周辺の開発により地下水のくみ上げで井戸や地下水位が低下したが、その後の観察で宮跡整備後も、宮跡全体で地下の木質遺物に支障のない安定した水位を確保していることが確認されている。今回の朝堂院の広場は北から張り出す台地で安定した地盤に占地したものであり、台地東西の谷筋に比べ乾燥した立地である。また整備により全体が不透水層になるわけでなく広場全体の排水処理や東西の谷部への給水が可能である。

 動植物の生態系の調査で、宮跡内の鳥類や植生調査が行われ、鳥類ではヒバリが留鳥で、季節の鳥が40種ほど見られ、森林性の鳥は少なく耕地・草地・湿地の鳥が多いことが確認されている。植生では、管理のためのケンタッキーブルーグラスや用材のススキの播種の痕跡以外に乾湿の差により優占種、構成種の変化がみられる。宮跡内の生態は一つの生態系の保存でなく、植生ではセイタカアワダチソウ等の外来種を排除して在来種を育成して往時の景観を再現するとともに市民にとっての緑地を提供していく方針のもとに行われている。基本構想・計画の中で緑地・池沼のゾーニングがされており宮跡全体の50%以上をしめ、緑地としての機能も充分発揮できるものと考えられる。

 利用実態調査では利用者・周辺居住者に対して量的・質的な調査が行われている。男女・職業・年代の属性毎の利用目的・頻度・評価・将来像・希望施設などの質的調査が行われ、未整備地区が多い段階でもあり、見学より休養・運動の公園利用が多いが、共通して広さに満足している実態である。

 史跡の利用実態調査は整備の進行にともなって継続して行う必要があり、生態系・水系の調査は継続して水位観測や植生のモニタリングが行われ、水位・生態系の変化がチェックされる必要がある。

 第一次朝堂院の広場は宮跡の中枢部で朝賀などの祭儀に際して臣下が着座する場であり、祭儀の再現やイベントなど有効に活用されることにより、往時の広がりを理解し、歴史を追体験できる平城宮跡の保全活用に繋がるものである。

 近年大極殿復元にあたり修復中の公開が行われ復元されたものを見るだけでなく、工事途中で組みあがる前の姿や往時の技術を見せることや、発掘現場の現地説明会同様、あらゆる機会を通じて参加することにより宮跡の実態を理解してもらい、また活用に参画してもらうことにより基本構想がめざす遺跡博物物館が成立するものである。

読者からのご意見

▼竹田忍(2012年11月2日)
 平城宮跡の工事について、近隣の人たちから、工事をした方が良いという声も寄せられているということですが、具体的に何件、どういう形で寄せられたのか明らかにしていただきたく思います。工事反対の署名は17000通以上集まっているようですよ。きちんとしたデータに基づいて話を進めましょう。

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