情報にも〝製造日〟を

2013年8月31日 浅野善一

◇視点 情報にも食品などと同様に〝製造日〟の明示が必要だ。食品における製造日が賞味に適した期間内かどうかの目安となるように、情報についても作成日がその有効性を判断する目安となるからだ。しかし、情報発信を業としているメディアを除けば、発信する側にこうした認識は乏しい。

 身近な例を挙げてみる。「奈良の声」で以前、奈良県と県内全12市の主要な観光パンフレット合わせて35点を対象に、発行日の記載があるかどうかを調べた。記載なしが4分の3に及んだ。

 観光パンフレットは、施設の営業時間や料金など変動する情報が多い。取り上げたパンフレットの多くはほぼ1年ごとに増刷され、その際に情報の更新が行われてはいた。担当者らは「常に最新のものを観光客に渡している」と口をそろえた。しかし、発行日がなければ、情報の新旧の判別はつかない。

 さらに言えば、パンフレットの利用者が常に最新版を手にしているとは限らない。そうしたとき、発行から時間が経過していることが分かれば、利用者は情報を確かめ直すか、あるいは最新版を入手しようとするだろう。それだけではない。利用者が新旧両版を保有していた場合、どちらが新しいものか判別がつかなくなってしまうこともあり得る。

 行政の住民向け印刷物の例もある。手元に、記者が住んでいる奈良市の市役所各課の直通電話番号一覧がある。3年ほど前、各世帯に配布されたが、発行日の記載はない。市では、毎年のように課の新設や統廃合が行われているにもかかわらず。

 政治家の場合も例外ではない。奈良市ではことし7月21日、市長選と市議選があった。立候補予定者が公約を掲げたちらしをいくつか受け取った。そのいずれにも発行日の記載はなかった。公約は当選者の後の評価に関わるのに、それがいつの時点の主張だったのか、あいまいになってしまってはよくない。

 これらの発信する側に欠けているのは、情報を受け取る側の視点であろう。観光パンフレットの場合で言えば、担当者は「認識がなかった」「指摘されればその通りだ」と認めた。印刷物など形ある情報は、先々まで繰り返し閲覧される可能性があることを忘れてはならない。将来の読者に対しても責任を負うということだ。

 このほかのさまざまな団体や企業にとっても同じで、人に見せることを目的としたあらゆる情報に通じる。特にインターネットの普及によって誰もが情報発信の機会を得られる現代は、個人にも同様の自覚と責任が求められる。

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