2014年1月27日 淺野善一

奈良県:奈良市、91年の中ノ川・無許可造成地、高額取得問題 「宅地」判定、通常は完工検査済み前提 鑑定評価に疑問

造成地の不動産鑑定評価書に添付されていた地図(部分)。赤い矢印で示した所が当該の場所。「造成中」の記載がある(矢印と一部の文字は記者が加筆した)
「宅地」と評価された造成地。現在は雑木に覆われ、進入路は扉が設置されて閉じられている=2013年10月21日、奈良市芝辻町

 奈良市が1990〜94年、積水化学工業奈良工場の移転用地として、同市中ノ川町などの山林を市土地開発公社(2013年3月解散)に先行取得させた際、無許可の造成地が「宅地」と鑑定評価され、高額で取得されたことが問題になっているが、不動産鑑定評価の通常の目安では、同造成地は「宅地」の判定を得られなかった可能性のあることが分かった。不動産鑑定の関係者によると、開発許可の有無は重要で、行政による工事完了の検査が済んだ段階で、初めて宅地としての鑑定評価ができるという。取得額の根拠となった鑑定に疑問が生じた。

 積水移転計画は2000年に中止になり、取得した約16万平方メートルは公社の塩漬け土地となった。金利を含む土地取得時の借金約82億円が残った。公社は約27万平方メートルに及ぶ塩漬け土地が問題となり解散したが、移転用地はその一部となっていた。市は、公社が土地取得のためにした借金約173億円を引き継いだ。本年度から毎年、約10億円ずつ、20年間にわたって返済していく。問題の造成地がなぜ高額になったのか、明らかにされなければならない。

 移転用地周辺は都市計画法の市街化調整区域、宅地造成規制法の宅地造成工事規制区域に指定されている。問題の造成地は市道に面した傾斜地で、広さ約1万平方メートル。登記簿の地目は現在まで山林だが、当時、敷地内を巡る道が設けられ、住宅地のようにひな壇に造成されていた。登記簿上でも、土地の一部は四角い区割りで八つほどに分筆されている。

 公社は91年4月、造成地を1平方メートル当たり17万2000円として17億6420万円で取得した。所有者は市内の不動産会社の代表取締役だった。移転計画で取得したこのほかの山林などは、ほとんどが1平方メートル当たり3万円前後で、造成地の取得額は突出して高かった。

 移転用地の不動産鑑定評価は、公社の委託ですべて市内にある同一の不動産鑑定会社支社が実施した。造成地の鑑定評価書は「市道沿いに一般住宅、作業所、資材置き場等が存する宅地地域内に所在する宅地に該当する」とし、鑑定評価額を1平方メートル当たり17万2000円とした。評価書には「一部ひな壇状に粗造成」の記載もある。評価額算出に用いる取引事例として採用したのは、市内住宅地の宅地の価格だった。

 一方、同様に取得した周辺の山林については、鑑定評価書は「宅地見込地」に該当するとし、評価額はいずれも1平方メートル当たり3万円前後だった。取引事例として採用したのは市内の「雑木林を主体とした地域」などの価格だった。造成地の南側に連続して隣接する傾斜地も、評価額は1平方メートル当たり3万円だった。

 不動産の鑑定評価基準では、不動産鑑定士が「宅地地域」にあると判断した田畑や山林は「宅地」に分類する。また、周辺のベッドタウン化などの影響で「宅地地域」に転換しつつある「農地地域」や「林地地域」にあると判断した田畑や山林は「宅地見込地」に分類する。

 造成地の目的が宅地であれば、同所では都市計画法の開発許可や宅地造成規制法の許可が必要だが、市開発指導課によると、いずれの許可も受けていない。このため、行われた造成が安全性などについて必要な技術基準を満たしているかどうかも不明だった。

 不動産鑑定の関係者に、造成地を鑑定する際の手順について次のように聞いた。「市街化調整区域、宅地造成工事規制区域にある山林傾斜地を取得のため鑑定評価しようというときに、そこがひな壇に造成されていたら、鑑定の手順として都市計画法の開発許可、宅地造成規制法の許可を受けたものであるかどうかを確かめるか。また、許可を受けているか否かは評価額に影響するか」。

 関係者の回答は、鑑定評価の上で開発許可の有無は重要とし、「竣工(しゅんこう)検査に合格して初めて、開発許可の目的である土地利用ができる。開発許可の予定用途が宅地であれば、竣工検査が済んだ段階で初めて宅地としての鑑定評価ができる」だった。

 2007年9月の市議会定例会で、当時の藤原昭市長は取得額が適正であったかどうかを問われ、「傾斜地をひな壇状に宅地造成された土地であったことから、宅地として鑑定がなされたもので、その鑑定価格をもって購入されたもの」と答弁した。

 しかし、取得当時の市の担当者は、造成地が無許可であることを認識し、「宅地」とみることに疑問を持っていたとみられる。当時の関係者の一人は取材に対し、「宅地の格好をしているから、宅地かなという感じは持っていた。無許可だというふうに多分、認識していた。実際に家を建てたりするのは厳しかっただろう」と証言した。

 また、取得額について「土地所有者との交渉が難しいということは聞いていた。値段の折り合いのことだったのだろう」とし、周辺の取得土地に比べ高額になったことについては「どうなのかな、という話はしていたかもしれない。ただ、早く土地を買って、積水の工場用地として造成しなければならないという使命があった」とした。

 市は取得額について「国家資格を持った不動産鑑定士による鑑定であるから適正」と説明してきた。これに対し、第三者委員会である市土地開発公社経営検討委員会は11年に公表した報告書で疑問を呈している。「同じ時点で取得した同じような条件の土地であっても、その購入単価が1平方メートル当たり10万円近く異なっている事例が見受けられた。先に売却者が応じた売買価額が結論として存在し、鑑定評価額については、それを上回るような調整をしていた可能性も否定できず」と、市が評価額に関与した可能性を指摘した。

 造成地を鑑定評価した不動産鑑定士は当時の鑑定結果について、「依頼者(公社)に対する守秘義務がある」として、具体的な質問には回答を避けた。無許可でひな壇に造成された土地を宅地と評価することは一般的にあるのかについても、「一般論であろうが何であろうが、答えは控えさせてもらう」とした。市土地開発公社経営検討委員会の聴取を受けたことを明らかにしたが、質問内容は覚えていないとした。

 造成地の所有者だった不動産会社の代表取締役に当時の造成の目的などを聞くため、27日までに市内の自宅を訪ねた。インタホンに家人とみられる人物が出たが、話は聞けなかった。

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