2014年5月22日 浅野善一

奈良県「東アジアの未来考える」サイト、公表に至らないまま廃止 構築などに数千万

弥勒プロジェクトで構築されたナラシス・ネットワークのイメージ(県のナラシス・ネットワーク運用支援事業に係る概要説明書から)

 2010年を中心に実施された奈良県の平城遷都1300年記念事業のうち、日本と東アジアの未来を描くことを目的に進められた「弥勒プロジェクト」で、取り組みの一つとして構築されたインターネットサイトが、公表に至らないまま3年で廃止されていた。県への取材などで22日までに分かった。

 プロジェクトは同サイトについて、ネット上に議論の場を設け、その内容を蓄積して東アジアの未来に関する「知」のアーカイブを構築するとうたっていたが、実際には議論の内容の蓄積はなく、構築と呼べるものにまで至らなかった。

 同サイトは08年度に基本設計、09年度にネット上に構築され、11年度まで運用された。ネット上にアップロードされていても、県がその存在やアドレスを公表していなかったため、一般の人がアクセスし、閲覧することは事実上、不可能だった。

 このため、同サイトでの公開を前提として、観光振興に向け制作されたデジタル素材も閲覧される機会がなかった。

 県は、サイトの設計・構築や運用支援の業務委託に1700万円、デジタル素材制作の業務委託に千万単位の費用を投じていた。

 弥勒プロジェクトは1300年記念事業で、奈良市の平城宮跡を会場に開かれた1300年祭と並ぶ中核的事業で、フォーラムやセミナーの開催、記念書籍の出版のほか、この「知」のアーカイブ構築を取り組みの柱にしていた。

 記者が県の情報公開制度に基づいて開示を受けた業務の委託契約書や県国際課の説明によると、サイトはポータルサイトの「NARASYS(ナラシス)ネットワーク・スタジオ」を入り口として、インターネット上の電子会議室「NARAcom(ナラコム)」と、記録や資料を集積するアーカイブとなるウィキペディア型のサイト「NARApedia(ナラペディア)」にアクセスできる構成になっていた。

 ナラコムは、有識者らで構成される「日本と東アジアの未来を考える委員会」を核に、大学や教育機関、研究者、芸術家などの幅広い人材をネットワーク化し、その横断的議論や交流の場とすることを目的とした。ナラペディアはこうした議論の内容などを掲載することを目的とした。「考える委員会」は県が弥勒プロジェクトの推進組織として設置した。

 サイトの設計・構築と運用支援については、08~10年度は弥勒プロジェクト推進業務委託の中に含まれていた。同業務は、日本総合研究所、松岡正剛事務所、編集工学研究所の共同企業体(JV)に随意契約で委託していた。11年度の運用支援は、単独で編集工学研究所に委託した。費用は08~11年度で合わせて1769万円だった。

 ナラコムが実際に利用されたのは、「考える委員会」の委員らによるの意見交換のときと記念事業の一つ、日中韓電子フォーラムでの意見交換のときという。しかし、これらの議論について、想定されていたナラペディアへの掲載はなかった。

 ナラペディアでは、「考える委員会」が推進している構想のキーワードなどを画像や音声で解説するともしていたが、掲載されていたのは「考える委員会」と「弥勒プロジェクト」の二つの用語解説だけだった。

 一方、観光振興に向け制作されたデジタル素材は、1300年祭が開かれた「2010年の奈良」をテーマに県内の実景を記録化したもの。風景、文物、催事などを撮影した約1000項目1万点のデジタル写真に解説を付け、ナラペディアに掲載されていた。制作は東京の大手広告代理店にプロポーザル方式で委託した。費用は、合わせて委託した1300年記念事業式典上映のイメージ映像制作を含んだものになるが、5998万円で、国の緊急雇用創出事業臨時特例交付金を利用した。

 県国際課は、サイトが公表に至らなかった理由について「当時の県の担当者から聞いていない。あらためて確認する」とした。

 また、サイトを廃止した理由については「コストやそれに代わる手段などを総合的に検討し、見直した結果である。ナラコムについては、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が発達する一方で、『考える委員会』でテーマ別に頻回に議論できる環境が整ったことなどから、システムの保守管理や運用のための経費を考え、廃止に至った。ナラペディアも運用経費などを考え、従来の形での継続は見直すこととした」とした。

 「2010年の奈良」のデジタル素材については「利活用の方法を検討中」とし、宙に浮いたままだ。

 県の包括外部監査が10年、情報システムに関係する財務事務を対象に行われたが、結果報告書はナラペディアについて「当システムの導入が有効な投資であったのか否かの判断は、今後どのようにコンテンツを充実させていくのか、また、いかなる広告宣伝戦略をとっていくかによって決まる」としていた。サイトの廃止によって投資の有効性は揺らいでいる。

 弥勒プロジェクトをめぐっては、日本と東アジアの目指すべき進路を構想するとして「考える委員会」名で10年に発行された提言集「平城京レポート」に、事実誤認、固有名詞や年号の誤りなどが多く見つかり、問題になった。

 プロジェクトを提案したJVの編集工学研究所、松岡正剛事務所の所長などを務める松岡正剛氏は当時、「考える委員会」の幹事長でもあった。県国際課によると、プロジェクトの関連事業の業務委託に関し、11年度から、一者との随意契約、一括発注でなく、事業を分割し、それぞれ一般競争入札やプロポーザル方式による随意契約を行うよう見直したという。

 プロジェクトは当初、1300年記念事業後も継続する予定だったが11年度で終了した。「考える委員会」は存続している。

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