県の登大路バスターミナル着工 建設地内の都市計画道路、見直し念頭 奈良市への許可申請で明確に 県民に説明なし
登大路バスターミナルの完成予想図と都市計画道路の計画区域(「奈良の声」作成)
奈良県が奈良公園の観光拠点施設と位置づける登大路バスターミナルが、奈良市登大路町の県営駐車場跡地で、先月10日着工した。建設地に、県が決定した都市計画道路「奈良天理桜井線」(国道369号の拡幅)の予定地が含まれていることについて、県民への説明はほとんどない。県の考えを聞いた。(記事の最後に質問と回答)
都市計画法に関する許可権限を持つ奈良市は、都市計画道路予定地に建てられるターミナル建物について、同法の「容易に移転または除却できるもの」という許可要件を満たすと判断した。しかし、道路の拡幅が具体化すれば、建物は撤去しなければならない。
県奈良公園室は回答で、「都市計画道路の見直しを順次、行っているところで、バスターミナル整備区域の奈良天理桜井線についても、車線数の減少やそれに伴う幅員の見直しが必要と認識している」と明言した。計画されている道路の拡幅をやめることを念頭に、バスターミナルの計画が立てられたことが明確になった。
県は、バスターミナルを整備するに当たって、有識者で構成される県の奈良公園地区整備検討委員会に意見を求めてきたが、この件について委員会で説明したことはなかった。建築規制がある都市計画道路予定地に、巨費を投じて大規模な施設を建設することについて、どのような見通しを持っているのか、県は進んで県民に明らかにする責任がある。
同ターミナルは、奈良公園内道路の渋滞の原因とされる観光バスの流入を減らすため、県営登大路観光自動車駐車場跡地約8600平方メートルに、バスの乗降場や駐機場を設ける。加えて、奈良公園の魅力向上を図るためとして、回廊を巡らせるように鉄骨造り2階建て延べ床面積約6400平方メートルの建物を配し、もてなし施設の飲食・物販店舗、学習施設のレクチャーホールや展示施設を整備する。事業費は50億円に上る。
これに対し、都市計画道路「奈良天理桜井線」は、建設地東側に面している国道369号をほぼ倍の33.5メートルに広げ、現在の2車線を4車線化する計画。東側は約100メートルに渡って同国道に面しており、ターミナル建物東西2棟のうち東棟の半分以上が、道路拡幅予定地内にあるとみられる。東棟は南北が約90メートルに及ぶ大きな建物。
都市計画法54条は、都市計画決定区域内で建築が認められる場合について、建築物の階数が2以下、地階を有せず、主要構造部が木造や鉄骨造り、コンクリートブロック造りのほかこれに類するもので、かつ、容易に移転または除却できるものであれば許可しなければならないとしている。
奈良市都市計画課によると、ことし7月12日付で県から許可申請があり、8月30日付で許可書を発行した。本来は都市計画決定区域を外して、施設を計画するのが理想とし、判断に当たっては、県に対し、都市計画道路予定地に建物を建てなければならない理由を文書で示すよう求めた。
同課によると、県は、ターミナル、ガイダンス、おもてなしの機能を果たすには規模が必要とする一方、ターミナル東側の都市計画道路については、人口減、交通量減が予想される中、車線減、幅員減の見直しが必要と認識している、と回答したという。
県奈良公園室は「奈良の声」の質問に対し、都市計画道路予定地にターミナル建物を建設することについて、次のように回答した。
「奈良公園周辺の交通渋滞を一日も早く解消するため、必要不可欠な施設として、一般車も含めた交通コントロール機能を有するバスターミナルの設置が、緊急かつ必要であるという認識のもと、整備を進めるもの。また、当個所は奈良公園の玄関口でもあることから、来訪者のためのガイダンス施設、おもてなし施設も併設している。これらの施設は、来訪者数をもとに必要最低限の規模にしている。このことを十分ご理解いただきたい」
建物の撤去の可能性と関わるだけに、計画されている幅員の見直しが必要と認識しているなら、そのことこそ奈良市都市計画課に説明したのと同様に、県民に丁寧に説明することが肝心ではないかと、回答を受けて再質問したが、これ以上の回答はなかった。
登大路バスターミナルは2018年度末までの開業を目指している。
県奈良公園室への取材は、同室側の求めに応じて、質問内容を文書にして電子メールで送った。9月8日に質問を送信し、15日に回答があった。
県奈良公園室への質問と回答
▽建物の建設場所に関し、奈良天理桜井線の都市計画決定区域を外さなかったのはなぜか。
【回答】
当該施設は、都市計画道路と重複しているが、そのことを鑑み都市計画法54条の許可の基準を満足する設計としている。
▽都市計画道路が具体化した際には、建物の除却もあり得ると考えているのか。
【回答】
奈良天理桜井線は都市計画決定段階のままで事業化に至っていないことから、都市計画区域内であっても、都市計画法54条の許可の基準を満足する設計方針としている。
▽奈良天理桜井線の4車線道路への拡幅計画を見直し、現状の幅員を維持する考えか。
【回答】
都市計画道路とは、都市の将来像を踏まえ計画的に配置されるものであり、その見直しについては社会情勢の変化などにあわせて慎重に行う必要がある。都市計画道路の見直しについては、順次行っているところであり奈良市域についても、奈良市と連携しながら必要性の検証を行い、見直しを行うこととしている。
なお、(仮称)登大路バスターミナルの整備を行う区域には、都市計画道路奈良天理桜井線が含まれており、現在4車線の計画となっているが、今後は車線数の減少やそれに伴う幅員の見直しなどが必要であると認識している。
▽登大路バスターミナルが都市計画道路上に計画されていることについては、9月7日のような記者会見(起工式開催の事前の案内)などの折に、県自ら項目を設定して、県民に向け、進んで県の考え方を説明すべき事柄だと思うが、いかがか。なぜ都市計画道路上に巨費を投じ、巨大な建物を建てようとするのか、県民には分からない。
【回答】
奈良公園周辺では、観光シーズンを中心に慢性的な交通渋滞が発生している。これは、奈良公園の来訪者に「二度と来たくない」という不快な思いにさせるほど深刻な状況であり、観光地にとっては致命的な状況が長年続いているところ。周辺住民にとっても、買い物や保育所の送り迎えなど少しの外出であっても時間が読めないなど、日常生活にも大きく影響を及ぼしている。
県としては、このような状況を喫緊の課題と認識し、これまでさまざまな取り組みをしてきたが、解決には至っていない状況。このことから、今般、奈良公園周辺の交通渋滞を一日も早く解消するため、必要不可欠な施設として、一般車も含めた交通コントロール機能を有するバスターミナルの設置が、緊急かつ必要であるという認識のもと、整備を進めるもの。
また、当個所は奈良公園の玄関口でもあることから、来訪者のためのガイダンス施設、おもてなし施設も併設している。なお、これらの施設は、来訪者数をもとに必要最低限の規模にしている。このことを十分ご理解いただきたい。