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浅野善一

奈良市の自治会交付金、返還命令3年間で100件 渡しっ放し改め、活動実績を確認 2021~23年度分

「奈良市自治会交付金交付金のてびき」の表紙(市ホームページの画像から)

「奈良市自治会交付金交付金のてびき」の表紙(市ホームページの画像から)

 奈良市が自治会の世帯数に応じて交付する自治会交付金を巡る不正受給事件を機に、それまでの渡しっ放しを改め、活動実績などを確認するよう2021年度に交付要綱を見直したところ、2023年度までの3年間で約100件の実績不足などが判明していたことが、「奈良の声」が市に開示請求した文書で分かった。市は自治会に対し交付金の一部または全部の返還を命じている。

 市自治会交付金交付要綱は「地域コミュニティの推進に資することを目的」に「自治会の事業に要する経費の一部を交付する」としている。交付は毎年あり、交付額は1世帯につき360円で算定。市によると2024年度は1056団体から交付金申請があった。交付金の総額は市の2025年度予算では3780万円。市内の自治会数は今年3月31日現在で1117団体という。

 開示された文書は返還命令の実施状況を一覧にした年度ごとの表。年度により様式が異なり、すべての年度についてすべての項目がそろっているわけではないが、自治会名(不開示)、世帯数、返還命令の理由、当初の交付額、返還請求額などが記載されている。

 それによると、2021年度交付分に対する返還命令は38件で請求額は合わせて約44万5000円、2022年度は43件で約42万1000円、2023年度は21件で約20万7000円。3年間を合わせると102件になった。

 市地域づくり推進課によると、実績不足の主な理由は交付金申請当初に予定していた夏祭りなど自治会行事の縮小や中止という。交付額算定の基になる交付金申請書の自治会加入世帯数が実際より多かったことが判明した事例もあった。2021、2022年度の返還命令の数が多いのは、新型コロナウイルスの感染拡大による活動の自粛があったためとみられている。

 自治会交付金の交付が始まったのは1981年。2020年の不正受給事件では、自治会の会長代行が活動実態がないにもかかわらず、交付金を申請、受給していたことが発覚。それまでの交付要綱は、自治会が交付金を申請し、市が交付するまでの規定しかなかった。交付金申請時に事業計画書が提出され、交付金は年度当初に交付されるが、実績報告は求めていなかった。

 交付要綱の見直しでは「実績報告」「交付決定の取り消し」「交付金の返還」などの規定を追加した。年度終了後に事業報告書と収支決算書を提出するよう義務付け、審査の結果、交付対象となる事業の経費が交付額に満たないときは返還を命じられるようにした。

 同要綱より上位に位置付けられ、奈良市が交付する補助金全般の基本的な事項を定めた市補助金等交付規則には「実績報告」や「補助金等の返還」の規定がある。市地域づくり推進課長は、この点を指摘する「奈良の声」の取材に対し「(見直し前の要綱は同規則にも)沿っていなかった」と述べた。

当初の記事の誤りについて

 本記事は、奈良市自治会交付金に関する当初の記事「奈良市、自治会交付金の返還命令2件 申請世帯数、実際の加入数と懸け離れ 2020年の不正発覚で制度見直し後」(2025年6月7日付、 記事へ)の事実関係に誤りがあったことを踏まえたものです。当初の記事中にある「返還命令4件」はその後の取材で、交付金申請書の自治会加入世帯数が実際より多かったことが判明した事例のみの数であると分かりました。返還命令全体の数は102件でした。大半は実績不足によるものでした。

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