|
町家取り壊され、跡地に共同住宅伝統的町並み現代化じわり奈良町の中心部
奈良市西新屋町で1軒の町家が取り壊され、跡地に店舗付き共同住宅が予定されている。周辺は、伝統的な町並みが残る奈良町の中心的場所(町並みの写真へ)。世界遺産の元興寺に近いなど観光客に人気の名所も多い。しかし、隣の中新屋町でも昨年、1軒の町家が取り壊され共同住宅が建てられるなど、町並みの現代化がじわりと進んでいる。住民の高齢化や世代交代、生活様式の変化、維持管理に伴う負担などのため、今後も町家が継承されないケースが予想されることから、付近住民は危機感を募らせている。観光地としても知名度が向上した奈良町で何が起きているのか―。
西新屋町のこの町家は間口約10メートル、奥行き約56メートルという奈良町特有の細長い土地(広さ約635平方メートル)に建っていた。奈良市は昭和63年に奈良町を調査、町家約1500棟を確認したが、この町家は外観に改造があるものの伝統的形式への復元が可能な「選定建造物」513棟の一つだった。平成6年には住人が市都市景観形成地区建造物保存整備費補助金を受けて、建物正面の修景に協力した。近くの住民によると、玄関を格子戸にするなどしたという。 しかし、住人は最近になって土地・建物を売り転居した。住民によると、家族で住んでいたが、建物の維持管理を負担できなくなったためという。購入した市内の仏具店経営者は共同住宅を建てるため、この7月から8月にかけて建物を取り壊した。 奈良町
予定されている共同住宅は木造2階建てで住居12室と店舗2室。外観は和風だが、市が補助金を出して推奨している奈良町ならではの「切り妻造り平入り」の町家の形態ではない。同町内には居住していない店舗も含め34軒あるが、共同住宅は初めて。元興寺旧境内地を中心に発展した。中世以降、さまざまな産業が栄え、江戸時代には奈良晒(さらし)などで有力な商工業都市となった。旧境内地を中心に江戸時代末から戦前に建てられた伝統的な町家が数多く残っており、町並み保存のため市が指定した奈良町都市景観形成地区の広さは約48.3ヘクタールに及ぶ。観光客の数は集計が難しく記録はないが、奈良町で入場者の最も多い「ならまち格子の家」の2009年の入場者は9万6854人だった。奈良町全体ではさらに多いとみられる。近年は外国人観光客も多く、同施設では月平均800人くらいが訪れるという。 一方、この東約100メートルにある中新屋町の共同住宅のケース。住民によると、町家の所有者はもともと住んでおらず、昨年7月、建物を取り壊して土地をプレハブ住宅メーカーに貸し出した。同住宅メーカーが現代風の2階建て共同住宅を建設した。この町家は市の昭和63年の調査では、伝統的形式が保たれている「指定建造物」210棟の一つだった。やはりこの周辺に共同住宅はない。 ▼17棟以上が姿消す奈良町でこれまでに取り壊された町家はどれくらいあるのか。旧市街地の奈良町一帯が都市景観形成地区に指定された平成6年4月以降、建物の新築・改築や取り壊しに届け出義務が課された。それによると17棟が姿を消したことになる。ただ過去には、取り壊し、新築の届け出を市の窓口担当者が新築のみで受け付けたり、届け出義務があることを知らず取り壊したりしたケースもあることから、実数はもっと増えると、市景観課は言う。取り壊しの理由はほとんどが耐震性や老朽化。改修は新築より費用がかかるためという。ほかに相続を機に次世代が住まず取り壊すケースも多い。
この補助制度は先ごろ行われた市の事業仕分けの対象となり、評価が下された。委員から見直しや廃止の意見はなく、むしろ「補助金が手厚いのに利用率が低い。誘導がうまくいくようにすべき」と運用の充実を求められた。市景観課は「制度開始から20年がたち、町家の住民も世代交代し、制度を知らない人もいる。地元に入り説明会や相談会を開き、広報に努めるとともに声も聞きたい」と話す。 住民の意識を調査したアンケートの結果がある。西新屋町、中新屋町に芝新屋町を加えた「三新屋町」は奈良町の中で伝統的な町家が比較的多く残っているとされる。奈良まちづくりセンターは三新屋町の80軒を対象に、町家の暮らしなどについて尋ね、今年2月にまとめた。住民は建物の耐震性や老朽化に不安があり、町家の良さを残しつつも現代生活に合わせた改善が必要と感じていることが分かった。そして、共同住宅建設など建て替えによる住環境の変化にも不安があり、住環境を守るためのルール作りが必要と考えていることも分かった。 また、市景観課は次のようにも指摘する。「奈良町の観光地としてのブランドが確立したことで、住民の景観への意識も高まった」。 ▼地区計画策定を検討かつて、奈良町の町並みを守るため、国の重要伝統的建造物群保存地区指定への申請が検討されたことがあった。文化財保護法に基づき、現状変更などが規制される。市が奈良町の町家を調査した昭和63年ころのことで、当時はちょうどバブルの時期。住民は規制を嫌った。住民の一人は言う。「格子戸は嫌や、と当時の住民は反対した」。代わりに実施されたのが強制の伴わない奈良町都市景観形成地区の指定。町家の意匠について景観形成基準を示し、それに倣えば補助を受けられるが、基準に従う義務はない。そうした過去の経験もあって、西新屋町では同町での地区計画策定に向けて検討するため協議会を発足させた。都市計画法に基づく手続きで、住民合意の上で建物などに一定の規制を設けるものだ。中心メンバーの南哲朗さんは「ここは奈良で一番古い場所。守っていかなければならない場所」と力を込める。 南さんには共同住宅増加への懸念がある。「町は高齢化しており、年寄りが亡くなると次の世代は住まず、家を手放して共同住宅に、というケースが増える可能性がある」と心配する。 奈良町は平日でも散策を楽しむ人の姿が絶えない。落ち着きと風情のある町並みが人々を引き寄せるのであろう。それは、奈良町の伝統的な町並みを生かしたまちづくりが成功したことを意味する。だからこそ、町並みの統一性、連続性は重要な要素である。しかし、住民だけで町家を守っていくのはなかなか大変だ。行政の支援はもちろんだが、奈良町に愛着を持つ県内外のファンの支えも必要ではないか。それにはまず、奈良町の現状に関心を持つことが大切であろう。(浅野善一) →訂正 |
関連記事テーマ
ご寄付のお願い
ニュース「奈良の声」は、市民の皆さんの目となり、身近な問題を掘り下げる取材に努めています。活動へのご支援をお願いいたします。
振込先は次の二つがあります。 ニュース「奈良の声」をフォロー
当サイトについて
当局からの発表に依存しなくても伝えられるニュースがあります。そうした考えのもと当サイトを開設しました。(2010年5月12日)
|
|