市役所などの玄関前でよく見かけるたばこの灰皿。庁舎内の禁煙化に伴って設置されたものだが、出入りする市民らの受動喫煙を招くことにならないか。喫煙場所に指定している場合はもちろんだが、別に喫煙所を設けて庁舎に入る際の火消し用にしている場合でも、灰皿があればそこで喫煙する人が現れる。
県内全12市役所と県庁を対象に調べたところ(各市の庁舎管理担当者への電話取材と現地確認)、9庁舎が玄関など市民らが利用する出入り口の前に灰皿を設置していた。
このうち、五條など5市は喫煙場所に指定。残る奈良など4市は別に喫煙所を設けており、庁舎に入る際の火消し用としていた。ただ、火消し用であることと喫煙所への案内図を表示していたのは奈良市と県庁だけだった。
県内12市役所と県庁の玄関前灰皿設置状況
(2011年6月20日現在) |
庁舎 |
玄関前灰皿 |
別に喫煙所 |
奈良 |
● |
火消し用 |
● |
大和高田 |
● |
火消し用 |
● |
大和郡山 |
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天理 |
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ことし1月撤去 |
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橿原 |
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昨年撤去(北館) |
● |
桜井 |
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火消し用 |
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五條 |
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喫煙所として |
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御所 |
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喫煙所として |
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生駒 |
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香芝 |
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喫煙所として |
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葛城 |
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喫煙所として |
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宇陀 |
● |
喫煙所として |
ことし4月庁
舎内から撤去 |
県 |
● |
火消し用 |
● |
玄関など出入り口の前に設置する理由は「場所が分かりやすい」「屋根がある」など。また、別に喫煙所を設けていながら、玄関前などに火消し用として設置する理由は「吸い殻の投げ捨て防止」が主だった。
出入り口であっても扉を避けて設置している、と説明する市もいくつかあった。奈良市の場合、扉から7~10メートルほど離している。以前は扉の前に設置していたが、庁舎内に煙が入ってくることが分かり、市民からも同様の指摘があったため、昨年夏、場所を移動した。
天理は撤去
一方で大和郡山など4市は、玄関などの前に灰皿を設置していなかった。中でも天理市はことし1月に撤去したばかり。玄関前での市民や職員の喫煙が常態化し、喫煙しない市民や職員から受動喫煙を心配する声が上がった。撤去に当たっては、吸い殻の投げ捨ても懸念されたが、結果的には問題なかったという。昨年、庁舎北館玄関前から灰皿を撤去した橿原市や、以前から設置していない大和郡山、生駒の両市も吸い殻の投げ捨てなど目立った問題は起きていないという。4市はいずれも別に庁舎内や敷地内に喫煙室などを設けている。
受動喫煙の可能性は複数の市が認めた。桜井市総務課は「灰皿が目立たない所にあると吸い殻の投げ捨てにつながる」としながら、「受動喫煙の可能性もあり、今後の課題」とも話した。しかし、「来庁者に対し、庁舎内での喫煙に注意を促さないといけないケースもあり、これ以上、禁煙とは言えない」(御所市)と規制の難しさを挙げる声もあった。
禁煙マラソンの提唱者で内科医の高橋裕子・奈良女子大学教授の話
問題は第一に、たばこの煙はほんの少しでも有害、さまざまな病気を引き起こす原因になる。産業医科大学の大和浩教授の調査では、屋外であっても17メートル先まで到達することが分かった。第二に灰皿の撤去が吸い殻の投げ捨てにつながるというが根拠はない。病院や学校も同じだが、大多数の人は禁煙であることを表示すれば守る。何のちゅうちょも要らない。第三に子供が見学に訪れることも多い市役所が灰皿を撤去すれば、社会教育的な役割も果たす。