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情報公開条例、権利の濫用禁止を明文化奈良市が改正案 本県初「開示目的以外の大量請求」など想定■奈良市情報公開条例改正案(第2、3項が追加分) 第5条 何人も、この条例の定めるところにより、実施機関に対し、行政文書の開示を請求することができる。 第2項 何人も、この条例に基づく行政文書の開示を請求する権利を濫用してはならない。 第3項 実施機関は、前項に規定する行政文書の開示を請求する権利の濫用に当たる請求があったと認めるときは、当該請求を拒否することができる。 ■奈良市が権利の濫用と想定しているもの
改正されるのは、開示請求権を定めた第5条。同条は「何人も行政文書の開示を請求できる」としており、ここに「開示を請求する権利を濫用してはならない」「濫用に当たる請求と認めるときは拒否できる」とする条文を追加する。併せて、取り扱い基準を設けて、権利の濫用に当たる場合を具体的に示す。 市が権利の濫用として想定しているのは、特定の課に対し短期間に集中して大量の請求を行う▽開示決定を受けたのに閲覧せず、同一内容の請求を繰り返す▽特定職員の誹謗(ひぼう)中傷を記載した請求を繰り返す▽行政文書の特定に応じない―など。 これまでも権利の濫用と判断した請求を却下することはあったが、明文化で根拠をより明確にしようという。 ただし、拒否を決める前に、請求者に対し業務遂行上の支障を説明し、理解を求めるとしている。また、請求が単に大量であることのみで、権利の濫用とはしないとしている。拒否に対する不服申し立ては、従来の不開示に対する手続きと変わらない。 2010年度は319件の開示請求があり、このうち市が濫用と考えているものは数件。ほかの年度も同様に、割合の上では低いという。 県と県内全39市町村に電話取材したところ、同様の権利の濫用禁止を明文化している自治体、または明文化を具体的に検討している自治体は他になかった。 一方、全国的には、政令市の横浜や福岡、奈良市と同じ中核市の富山や豊田(愛知県)、都道府県の千葉、富山、山梨、静岡、三重などが明文化している。いずれも、市文書法制課が参考にするための調査で確認できた範囲だが、市の条文などは横浜を参考にした。 また、国の情報公開法改正案も権利の濫用禁止を追加したが、国民の知る権利の明記や開示情報の拡大、開示請求手数料の原則廃止など、制度の充実を図った改正点の中の一つ。内閣官房情報公開法改正準備室は電話取材に対し、「手数料の原則廃止で濫用が助長される側面が否めないため明文化した。何が濫用に当たるかはガイドラインで明確にする」とした。 奈良市は市民の知る権利を明記しており、手数料は取っていない。(浅野善一) 改正の背景、狙い 市文書法制課に聞く〈一問一答〉―権利の濫用禁止を根拠とした拒否はどの時点で請求者に伝えるのか。「窓口で拒否を宣言することもあり得るが、ほとんどの場合は、慎重に検討するためこれまでと同様、請求を受理し、権利の濫用に当たると判断したときに、この規定を根拠として請求者に不開示を通知する」 ―市が権利の濫用として想定しているものは、実際にあったことか。 「経験を反映しているが、これに似たことがあったというぐらいしかいえない。過去はいったん切り、条例を定義する」 ―現在、濫用と考えられる請求にはどう対応しているのか。 「権利の濫用禁止は一般法理(民法第1条3項)としてあり、これに照らして濫用と判断すれば却下してきた。また、条例の第4条も、利用者の責務として、権利を正当に行使しなければならないとしている」 ―現条例の第6条の請求の不備でも却下できるが。 「請求書の補正に応じない場合、権利の濫用が認められるが、同項は直接、権利の濫用をいっているわけではない」 ―市役所の窓口業務の中でなぜ、情報公開請求に対してだけ、権利の濫用禁止の規定が必要なのか。 「他の窓口業務は市民の生活に必要な業務。おおむね請求に従ったサービスが受けられる」 「情報公開の場合は、一般法理で説明しても迂遠(うえん)になる。条例自体に条文を設けるべき。却下のとき説明しやすくなる。過去に請求者からどこにもうたっていないと言われたことがある。情報公開は数やどのような請求があるかの予測がつかない。権利の濫用の頻度が高くなる可能性がある」 ―過去に濫用禁止の条文があれば、拒否できたものもあるのか 「防げたことはある。請求者に、権利の濫用であることや却下の理由を具体的に示せただろう。却下の判断や請求者に対する却下の説明など、手続きに要する時間も短縮される」 ―要項で濫用に対する運用基準を設ける方法では、だめなのか。 「他市の例などを参考にそれも検討したが、条例上で明文化した方が市民に周知できる」 (取材には坂東和哉課長が応じた) 〈視点〉要項で対応の自治体も権利の濫用禁止を明文化せず、要項のみで対応している自治体もある。神奈川県は2002年、「不適正な大量請求に対する取扱い要項」を設けた。何が「不適正な大量請求」に該当するのかや、それへの対応を示している。県情報公開課によると、そうした請求があったことを受けて制定されたが、よほどのことがない限り、適用されないといい、実際、制定以後、適用はないという。 同県では、国の情報公開法改正案の改正点が条例改正の検討対象になっているとしたが、権利の濫用禁止は新設しないこともあるとした。 神奈川のように、要項などで権利の濫用に該当する行為や対応を具体的に定める方法では、なぜ、だめなのか。奈良市は、条例上で明文化した方が市民に周知できるとする。つまり、一目瞭然だから、拒否するときの説明も早いということだ。 しかし、改正案の条文「権利の濫用に当たる請求があったと認めるときは、当該請求を拒否することができる」には、市当局の立場が唐突に強調されている印象を受ける。参考にした横浜市に倣ったものではあるが、「拒否できる」との表現は、行政情報が市民のものであるという前提を、後退させていないだろうか。 国の情報公開法改正案で、これに相当する部分は次のようになっている。 「行政機関の長は、開示請求があったときは、(中略)開示請求者に対し、当該行政文書を開示しなければならない。ただし、当該開示請求が権利の濫用(中略)と認められる場合に該当するときは、この限りでない」 県内市町村の情報公開担当者への電話取材で分かったが、複数の自治体が国や近隣の動向に関心を持っていた。「他市町村の動向に合わせたい」(大和郡山市総務課)、「動向を見ている。国も見直しがあるかもしれない」(葛城市総務財政課)、「国や市町村の動向見ながら判断していく」(宇陀市総務課)などから、それがうかがえた。県内で今後さらに、権利の濫用禁止を明文化する自治体が増える可能性もある。 |
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