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「権利の濫用禁止」明記、必要か特定の請求者の行為、きっかけの一つに奈良市情報公開条例改正 08年には同種の見直し見送るも 奈良市は、市情報公開条例に「権利の濫用禁止」を明記する改正を、3月定例市議会に提案する。同規定の明記は、本県では県を含め初めて。一般法理としてもある「権利の濫用禁止」をなぜ、あえて条文でうたわなければならないのか。市民が請求をためらったり、結果として請求の制限や選別につながったりしないか、気がかりだ。記者が開示請求で入手した市の関連文書などをもとに、経緯を取材した。市は、特定の請求者の行為の対応に困ったことをきっかけの一つに、全国の自治体ですでに実績のある同規定の明記を決めていた。
市によると、「濫用」として想定しているのは、通常の業務に著しい支障を来し、かつ害意が認められる大量請求などの行為。条例改正では、「濫用」に該当する行為を要項で具体的に示し、市がこれに該当すると判断したときは、「濫用」を根拠に開示請求を拒否できるようにする。 これまでの大まかな流れは、次の通りだ。 2008年4月、市は情報公開条例を大幅に改正した。「『知る権利』の尊重」の明記とともに、何人にも開示請求権を認めるなどした。この改正の際にも、「適正な請求」の明記という形で、同種の検討が行われた。しかし、改正について諮問を受けた市情報公開審査会は、不要と答申した。 2010年度、開示請求の却下が39件に上った。いずれも条例第4条の「権利を正当に行使する」に反すると判断した大量請求だった。11年度にも同様の却下が6件あった。前後して、全国では、県や政令市、中核市などが「権利の濫用禁止」を明記する動きが広がり始めた。 市は昨年10月、「権利の濫用禁止」の明記について、市情報公開審査会(会長・伊藤忠通県立大学長、5人)に諮問。審査会は懸念される点についても議論したが、要項による判断基準の明確化を求めた上で、明記が必要と答申した。 +++ 「コントロールが利かない」市が「権利の濫用禁止」の明記を決めたきっかけは何か。2008年の条例改正の際、審査会は今回の答申とは逆に「適正な請求」の明記を不要としている。06年7月13日開催の審査会議事録によると、委員は次のような意見を述べている。 適正かどうかの判断を、開示の裁量権を持つ行政側が行うのは難しい▽大量請求は、開示決定の期限の延長で対応可能▽請求者が文書の特定に応じない場合は、請求を却下できるとの条項を追加する(現条例第6条)―。審査会は、行政が請求に対して、開示・不開示の適否ではなく、入り口の所で請求そのものが適正かどうかを判断することに、否定的だった。 一方、市は、「適正な請求」の明記を「積み残しの課題」(市文書法制課)と考えた。 市の起案文書を開示請求した。「権利の濫用禁止」の明記について、市情報公開審査会に諮問する際、文書法制課が作成したものだ。同文書は2010、11年度に却下した開示請求の件数を挙げて、起案の理由をだいたい次のように説明している。 請求者から、どの条文をもって却下したのかの説明を求められたが、現条例で利用者の責務を定めた第4条の「正当に権利を行使する」に反すると説明しても、説明しきれない状態である―。 同課が昨年10月3日開催の審査会で委員に配布した審議資料は、さらに具体的だ。 それによると、開示の実施時に、請求者が「知る権利」と「説明責任」を主張し、行政文書の開示だけでは済まない状態が毎回続き、納得するまで説明を求める▽開示請求した行政文書は、ほとんどといっていいほど見ることがない―などとして、「文書法制課ではコントロールが利かない状態」とある。 同課によると、いずれも同一の請求者によるもので、1日ごとに請求に訪れるなどして、一つの部に集中して大量請求を反復的に行ったという。ただ、この請求者の行った開示請求の大半は開示しており、却下は一部ともいう。 ◆「権利の濫用禁止」の明記がなぜ必要なのか、市文書法制課の坂東和哉課長と市情報公開審査会長の伊藤忠通・県立大学長に疑問点をぶつけた。+++ 全国で条例化の実績ある
―― 市文書法制課・坂東和哉課長に聞く〈一問一答〉
―2008年の条例改正で明記が検討されたのは「適正な請求」だったが、今回はより踏み込んだ形の「権利の濫用禁止」に変わった。なぜか。「08年も『適正な請求』を明記し、その基準を置こうとしたが、時期尚早との判断だった。当時、『権利の濫用禁止』の明記は、他市の先行事例にもなく、発想に至っていなかった。この改正の際、条例の解釈運用基準には、大量請求などの扱いに関する項目を追加している」 「改正から4年を経て、状況が変わった。現下の状況に応じるため、『権利の濫用禁止』を明確にする。規定は市側による『濫用禁止』の濫用が起きないようにする意味もある」 ―「権利の濫用禁止」の明記を決めた理由は、2010、11年度の却下件数の増加か。特定の請求者によるまれなケースのために明記は必要か。 「理由は、奈良市のケースと全国の動きの両方で複合的。全国で『権利の濫用禁止』を明記する自治体が出てきた。『権利の濫用』で却下するのがふさわしい。まれなケースでも請求が相当量になっており、制限の基準を明確にする必要があった」 ―「権利の濫用禁止」とするのではなく、条例上で個別に禁止行為を示すことはできないのか。 「請求者の人格・態度、事象を全て想定するのは不可能で非現実的。改正に手間が掛かる。適宜の対応をするには、市長決裁で決定できる要項で該当する行為を定めるのが良い」 ―条文は「事務に支障を来す行為の禁止」など別の表現でも良かったのではないか。 「『権利の濫用禁止』は響きは良くないが、一般法理としてもあり、先進市の条例でも使われている」 +++ 制度普及で不適正な請求出てきた
―― 市情報公開審査会長の伊藤忠通・県立大学長に聞く
市情報公開審査会は2008年の条例改正の際、市が検討した「適正な請求」の明記を不要とした。行政側が請求そのものの適否を判断すべきでないとしていた。しかし、今回は「権利の濫用禁止」の明記を必要とした。理由を会長の伊藤忠通・県立大学長に聞いた。伊藤会長は個人の見解とした上で、次のように述べた。(インタビューをもとに取材者側がまとめた)特定の請求者が、開示された文書を十分見もせずに大量請求を繰り返したり、窓口の職員に長時間、対応を求めたりしている。適正な権利の行使ではない。歯止めがいる。全国でこうしたケースが増えてきた。状況が変わった。他自治体でも「権利の濫用禁止」を条例化している。 2008年の条例改正当時は、目的ある大量請求だった。市に対し、開示作業ができないから、拒否というのは駄目と言った。しかし、情報公開制度の普及で、不適正な請求を行う人も出てきた。まれなケースだが規定を設けておかないと、本当に知りたい人に迷惑をかける。知ったら、まねをする人も出てくる。一般に制度は必要に応じて改正していく必要がある。 判断基準を定めれば、市に裁量権は与えられない。運用がクリアになるのではないか。濫用禁止規定ができれば、請求の仕方についての喚起にもなる。開示を拒否されても、不服申し立ての手段がある。 市の扱う情報が増えている。市民が文書を特定しやすいよう、市にもどのような情報があるのか説明する責任がある。(浅野善一) 改正案、3月議会で可決
権利の濫用禁止を明記した市情報公開条例改正案は2012年3月定例市議会で可決され、同年4月1日に施行された。同改正では議会を条例の実施機関に加える改正も行われた。(2012年4月記事追加) |
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