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災難カルガモに救い コブハクチョウの思いは与名さん執筆の本サイト連載で紹介 専門家に見解聞く
奈良市内のため池で、くちばしにごみとみられるリング状のものが絡んでもがき苦しむカルガモに寄り添うコブハクチョウの姿を、本サイトの連載「やまと鳥事情」の第20回(2012年12月24日掲載)で紹介した。執筆者の野鳥写真家・与名正三さんは、コブハクチョウがカルガモを救おうと、自分のくちばしを使ってリングを外してやろうとしていたという。さまざまな野鳥を見てきた与名さんも初めて目にする光景だった。コブハクチョウにはどんな〝思い〟があったのだろうか、専門家らに見解を聞いてみた。 コブハクチョウがいるのは同市佐紀町の水上池。数は1羽だけ。池の前に住んでいる女性(73)によると、性別は雄で、池にすみ着いて8年近くになる。女性は餌をやるのを日課にしているが、普段のコブハクチョウはおこぼれにあずかろうと集まってくるカルガモやバンを追い払ったりする。女性は「コブハクチョウは自分が池で一番偉いと思っている」という。 与名さんが災難に遭ったカルガモを目撃したのは先月22日。リング状のものが猿ぐつわをしたような格好でくちばしと首に絡み、突然、悲鳴を上げた。コブハクチョウは急いだ様子でカルガモの所に向かい、リングの下にくちばしを当てて押し上げようとするなど、リングを外そうとしているように見える行為を繰り返した。与名さんは、普段のコブハクチョウの池での他の鳥に対する振る舞いについて聞いていただけに、いつもと様子が違う行動はカルガモを救おうとするものだと思ったという。 動物行動学が専門の上田恵介・立教大学理学部教授と、千葉県行徳野鳥観察舎(市川市)で水鳥の調査や野鳥病院での傷病鳥の救護を担当してきた職員、蓮尾純子さんにそのときの様子を捉えた写真などを見てもらい、見解を聞いた。上田教授はこうした行動を見たことがないためよく分からないとしながらも、動物に他人を助ける種はいないとし、コブハクチョウはカルガモが騒ぐので気になって引きつけられたのではと推測した。蓮尾さんも同様の解釈を示したが、一方で、そうした解釈だけでは見逃してしまうものもあるかもしれないともした。 下記に見解の全文。 上田恵介・立教大学理学部教授の話写真は確かにコブハクチョウがカルガモのくちばしに付いた何かをついばもうとしています。こういう行動を見たことがないので、よく分かりませんが、動物行動学者として、あえて推論をさせていただくならば
千葉県行徳野鳥観察舎職員 蓮尾純子さんの話写真からは確かに「好奇心から寄ってきてくわえてみる」というよりは、とってやりたいというように見えます。鳥は相互羽繕いという行動も普通にしていますし、悲鳴は種類が違っても意味はとれるものです。敵対的な様子はどちらにも見られず、穏やかに仲良く接している感じです。本当に助けてやろうとしたのかもしれません。自然科学に関係する人間は、他の生きものが「人間的」な行動をとる、と受け取らないようにしつけられています。それでも、象が仲間の白骨死体から牙だけを抜いて持ち去る葬礼のような行動とか、明らかに別種の動物を助けている映像とか、むしろ映像技術の進歩によって、「人間的」という言い方のほうが不遜なのであって、利他的だったり、先々の予見や推理だったり、そうした行動を他の動物が行う例というものも知られてきているような気がします。 ただし、スタッフともちょっと話したのですが、私どもの野鳥病院内で同様の行動を見たとしたら、変なものがついていて、変な行動をしているから、ちょっとかまってみよう、という解釈になるかな、とも思います。その解釈の方が正しいのかもしれません。 できるかぎり単純明快に割り切ろうというのが科学の基本であるにせよ、そうした姿勢から見逃してしまうものも多々あるかもしれません。本当のところはどうなのか、コブハクチョウに聞いてみるしかないのではないでしょうか。 |
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