奈良県と大阪府にまたがる大和川は、水質の悪さが全国の河川で3番目。行政は、汚れの原因の8割は生活排水だとして、各家庭での調理や食器洗い、洗濯の際の取り組みが大切と呼び掛ける。しかし、一律のこの呼び掛け、流域の奈良市で実際に台所に立つ者としてどうも分かりにくい。わが家のように下水道に接続している家庭も対象なのか―。
国土交通省が昨年7月に発表した全国1級河川の水質現況によると、大和川のBOD(生物化学的酸素要求量)は3.2ミリグラム/リットル。値が大きいほど汚れがひどいことを示し、順位は下から3番目だった。大和川は山地が少ないため水量が少なく、これに加えて流域で都市化が進んだことから、汚れがひどくなったとされる。
大和川に流れ込む生活排水のBOD排出負荷量
(2008年、大和川水環境改善計画計画書から) |
|
負荷量
(キロ/日) |
負荷量の
比率(%) |
下水道接続 |
1650 |
7.6 |
高機能合併処理浄化槽 |
5 |
0 |
合併処理浄化槽 |
968 |
4.5 |
単独処理浄化槽 |
1万3373 |
61.5 |
くみ取り |
5734 |
26.4 |
生活排水の合計 |
2万1729 |
100 |
水質改善強化月間の2月、県広報紙「県民だより奈良」の同月号は、大和川の水質改善をテーマにした特集記事を載せた。奈良市広報紙「ならしみんだより」も同月号に短い記事を載せた。やはり、いずれの記事からも、この疑問への答えを見つけられなかった。
県民だよりの特集は、台所などでの生活排水対策の具体例を紹介し、最終的に下水道への接続や合併処理浄化槽への転換を促す内容。記事中の「知事からひとこと」というコラムでは「大和川が汚れる原因は、各家庭からの生活排水が約8割を占めています。県民の皆さん一人一人の家庭でのチョットした取り組みが大きな力となります」となっていた。下水道に接続している家庭が啓発の対象に含まれるのか否か、どちらにも受け取れる。「ならしみんだより」の記事からも同様の印象を受けた。
特集記事を担当した課の一つ、県環境政策課に問い合わせた。回答は「下水道に接続していれば、生活排水対策の問題はない。啓発の対象は主に単独処理(し尿)浄化槽やくみ取りの家庭」だった。つまり、浄化槽や下水道を経由せず、そのまま川に排出される台所や風呂場、洗濯などの汚水が問題ということだ。
下水道や合併処理浄化槽の家庭では、し尿のほか、生活排水も全て一定の水質基準を満たすよう処理されて、川に放流される。これによるBOD除去率は90%以上という。
この点について分かりやすい資料がある。大和川に流れ込む生活排水の汚れの原因を、排出元別に知ることができる。大和川水環境協議会の大和川水環境改善計画計画書(2012年2月)の08年大和川流域BOD排出負荷量によると、その原因の9割を単独処理浄化槽とくみ取りが占め、下水道と合併処理浄化槽は1割。大和川流域の下水道普及率は8割に近く、これに伴い水質は改善されている。
ならば下水道に接続している家庭では、台所などでの取り組みは不要か。県民だよりの特集記事を同様に担当した県下水道課にも問い合わせた。同課は「下水道に接続していても、水が汚れていれば、その分、下水処理場に負荷が掛かる。処理により多くの電力が必要になり、環境にも良くない。電気代など処理費用も増す。汚れを食べてもらっている生物も疲れてきて、長い目で見れば処理能力や放流する水の水質にも影響してくる」とする。
丁寧な説明が望まれる。行政はそれをできる豊富な情報を持っている。下水道に接続している家庭、合併処理浄化槽や単独処理浄化槽を設置している家庭、くみ取りの家庭がある中で、自身が出した生活排水は大和川の汚れに対し、どのような位置にあり、家庭での取り組みがどのような結果につながるのか。県民の認識が深まれば啓発の効果を高める一歩になるはずだ。
県環境政策課は特集の狙いについて「汚れの原因を追及するのが目的ではなく、大和川をみんなできれいに、というのが大きなテーマになっている。記事を見て、意識を持ってもらえたらありがたい」とする一方、「次回の啓発記事にはそうした意見も生かし、下水道への接続の有無など区分別に生活排水対策を紹介するなどの改善も考えたい」とした。