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拠点・奈良県大和郡山市 運営者・浅野善一

奈良県)平城宮跡整備、現状凍結望む意見が過半数 08年、国交省の国営公園化報告書 利用者アンケート

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2013年2月20日 浅野善一

 国土交通省が2008年、奈良県奈良市の平城宮跡(特別史跡)の国営公園化に向けてまとめた検討報告書の宮跡整備に関する利用者アンケートで、「あまり手を加えず、現在の自然や歴史資源を保存する」との意見が半数を超え、利用者の希望が現状凍結型に移行しつつあるとする、調査結果をまとめていたことが分かった。一方、報告書を踏まえて策定された国営公園基本計画は、平城宮中心部の再現が柱となった。現在、その一環で進められている朝堂院広場の舗装をめぐっては、反対運動が起きている。

 宮跡は地下に遺構・遺物があり、田畑だったところが草地の状態で保全されてきたため、緑地の景観や自然が市民に親しまれている。

 検討報告書は、奈良文化財研究所などが04年にまとめた「特別史跡平城宮跡平成15年度秋季及び冬季利用実態調査報告書」の利用者アンケート調査結果を引用した。アンケートは03年秋、現地で面談により来訪者520人に対し行われた。

 このうち、利用意向に関する「平城宮跡がどのような姿に整備されることを望むか」との問いでは、「あまり手を加えず、現在の自然や歴史資源を保存する」が51.2%と半数を超えた。次いで「一部の施設は復元し、公園的利用が可能な整備を図る」が34.2%、「積極的に建物などの復元を行い、当時の面影を再現する」が12.9%だった。前回調査(1996年)では、「現状保存を中心とした整備」が24.5%で、これと比較して、報告書は利用者が望む整備の方向について「現状凍結型にシフトしてきている様子がうかがえる」とした。

 また、回答を居住地別に見た場合について、報告書は「遠方から訪れる人ほど積極的復元を希望し、市内や県内の人は現状保存が半数を超えている」とした。来訪者の居住地は奈良市が43.3%、関東が9.5%だった。

 施設別に整備の必要性を尋ねた問いでは、「大規模な復元建物」について「必要」とする意見は33.9%にとどまり、「不要」の32.3%と拮抗(きっこう)。報告書は「意見が分かれた」とした。これに対し、「必要」の回答が多かったのはトイレ(「必要」が59.4%)、ベンチ・あずまや(同54.9%)、屋内休憩所(同47.4%)、総合案内所(同41.4%)などの便益・サービス施設だった。

 アンケートを実施した時点で、朱雀門と東院庭園は復元済みだった。大極殿は工事中だった。いずれも文化庁による事業。

 基本計画は、30年以上前の1977年に奈良文化財研究所がまとめた平城遺跡博物館基本構想案が軸になっている。2007年に当選した荒井正吾・奈良県知事はこの構想を踏まえた復元整備を進めるため、国に対し国営公園化を積極的に要望した。県も08年、国営公園化検討報告書をまとめた。同様に奈文研の調査報告書を引用し、来訪者の利用意向について国交省と同趣旨の調査結果をまとめている。

 朱雀門から第一次大極殿に至る平城宮中心部の再現で今後、最大の事業となるのは第一次大極殿院の築地回廊の復元。回廊は大極殿の周囲を1キロ近くにわたって巡り、正面には重層の門と二つの楼閣があったとされる。費用は数百億円に上ると見込まれている。

 国交省の検討報告書が引用した奈文研の調査報告書は現在、同研究所の図書資料室で閲覧できるが、同研究所によると、報告書がまとめられた際、記者発表はされていない。国交省の報告書は同省のホームページで閲覧できるが、膨大な情報の中の一つ。一方、県の検討報告書は非公表で、記者は担当の県平城宮跡事業推進室とのやりとりを通して存在を知り、情報公開条例に基づいて開示請求した。市民がこれらの情報に接するのは容易でなかった。

 アンケート結果と基本計画の整合性はあるのか。現状凍結を望む意見が半数を超え、建物復元で意見が分かれていたのなら、計画策定に当たっては市民の参加や市民への丁寧な説明、議論がもっと必要だったのではないか。情報も行政側に偏在している。

 国交省の担当者と県に見解を聞いた。

 国交省近畿地方整備局国営飛鳥歴史公園事務所の伊勢達男副所長の話 基本計画はそうした意見も踏まえた上で、学識経験者や関係機関でつくる基本計画検討委員会で議論し策定された。選挙や住民投票のように数だけで判断しているわけではない。計画策定に当たってアンケート結果は考慮されたと理解している。 

 県平城宮跡事業推進室の話 検討業務自体が利用者調査だけで整理したものではなく、文化庁の平城宮跡保存整備基本構想などを踏まえて検討を行ったもの。それらの全体整理を踏まえ、宮跡全体を復元整備するのではなく、場所の特性に応じたゾーニングを行い、遺構保護を前提として現在の自然や資源の保存と復元整備を両立させ、より多くの人々が平城宮跡を理解し、楽しめるよう検討した。保存と復元の両者に配慮した形のものになっている。

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